研究課題/領域番号 |
16K03898
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
三井 泉 日本大学, 経済学部, 教授 (00190679)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 経営理念 / 生成・伝播・継承 / 動態的プロセス / 東アジア企業 / 経営人類学 |
研究実績の概要 |
本研究は東アジア企業(主として日本、韓国、中国、台湾)の経営理念の動態について、「経営人類学」の方法に基づいて学際的現地調査を行い、その比較とともにアジア型の共通性に考察し、理論的フレームワークの構築を目指すものである。具体的には、日本、中国・韓国・台湾における企業について連携研究者とともに現地調査を行い、その結果をディスカッションすることにより、各自の専門領域を融合させる形で研究を進める。 まず研究打ち合わせについては、今年度は5月3日(奈良・帝塚山大)、11月14日(奈良・天理大)、3月14日(奈良・帝塚山大)の3回開催し、研究の進め方および各自の研究状況ならびに研究計画についての報告と議論を行った。 研究については、2008年以降研究代表者と連携研究者が行ってきた類似テーマの関連研究を発展させる形で、以下のような対象を中心として行った。(1)ヤクルトグループによる経営理念とそれに基づく販売方針、ならびに「ヤクルトレディ」の働き方が、日本以外のアジア各地でどのように展開されているのかについての研究。(2)台湾企業(合璧工業公司、瑞成書局等)関して、日本企業の経営理念の影響と、各自の企業独自の経営理念継承の方法に関する研究。(3)日本企業(パナソニック、島津、ブラザー工業、京セラ)などのグローバル事業展開に関わる、経営理念伝播に関する研究。この研究に関する今年度の成果は、研究発表欄に示したように、論文、研究ノートが各1本公開されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成28(2016)年度は、代表者と連携研究者の公私(在外研究、学長など管理職による公務の増加、配偶者の出産、近親者の逝去等)の事情が重なり、当初の計画変更を余儀なくされた。そのため、特に現地調査に関して年度中に行うことができなかった。従って、今年度は、各自が今までの研究の整理を行い、発見事実を確認するとともに欠落部分の洗い出し、ならびに理論的枠組みを構築すべく関連文献研究を行った。また、国内研究打ち合わせにより意見交換を行い、研究成果の精緻化と今後の研究推進のための基盤づくりを行った。以下は、各自が行った研究概要である。 研究代表者は、昨年度までの研究(別の助成金による)により集積されてきたパナソニックのアジア駐在経験者のインタビューの整理を通じ、そこから経営理念伝播の説明のための枠組として「文化翻訳」という言語学並びに文化人類学の概念を用いることを提案し試みた。その成果の一部を研究ノートとして発表した。さらに連携研究者の住原則也は、当時のこのインタビュー成果の欠落部分を補うべく、関係者への再度のインタビューを行い、いくつかの新たな事実を発見した。また、連携研究者の河口充勇は、今までの研究対象である台湾の合璧工業公司の追跡調査とともに、新たな対象として台湾老舗企業の瑞成書店の調査に着手し、日本の老舗企業の経営理念継承との比較研究を開始した。同じく連携研究者の奥野明子は、今まで行ってきたヤクルトグループ、ヤクルトレディの研究を発展させるべく、比較の視点として生命保険の女性営業職員に関しても研究視点を拡大した。同じく連携研究者の岩井洋は、韓国の経営理念研究の対象領域に、サムソンとの比較の視点を取り入れようと試みるとともに、企業以外の組織(大学等)の経営理念研究の可能性も模索している。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で述べたように、28年度は特に海外調査に遅れが生じているため、今年度は可能な限り各自の調査領域の海外調査を行う予定である。まず、各自が蓄積してきた人的ネットワークを基礎としながら、新たに調査対象企業、インタビュー対象者の開拓も行う。海外調査に関しては、メンバー各自の専門分野の特色とともにその学際性を生かすため、可能な限り分野の異なる複数研究者で行うこととする。さらに、グローバル展開をしている日本企業、あるいは海外企業の日本支社にも調査を依頼し、経営理念の海外伝播に関する実態の把握に努める。それと同時に、老舗企業の経営理念継承について、国際比較が可能であるか否かの調査にも着手する予定である。 以上の研究を通じて、アジア企業における経営理念の比較とともに、アジア的共通性があるか否かを探るため、欧米企業との対比も試みる予定である。その際には、「経営理念」そのものの考え方に相違があるか否か、ということも検討していきたい。この点については、まず欧米企業の日本法人へのインタビューや資料収集から着手したい。 また年に2回ほど、東京あるいは関西にて研究打ち合わせ・成果検討会を開催する。また、この研究の中間報告を、各分野(経営学、文化人類学、社会学)の国内外の学会にて行う予定である。また、発表の機会を積極的に見つけて、各自あるいはグループでディスカッションペーパーや論文などとして公刊していく予定である。なお、今までのこのメンバーでの経営理念研究に関しては、既に日本で2冊の共著、その翻訳として中国で1冊の訳書を出版してきた。今後も、英語での共著の出版を予定している。続けて、この科研費研究についても国内外での出版を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28(2016)年度は、代表者と連携研究者の公私(在外研究、学長など管理職による公務の増加、配偶者の出産、近親者の逝去等)の事情が重なり、当初の計画変更を余儀なくされた。そのため、特に現地調査に関して年度中に行うことができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度は特に海外調査に遅れが生じているため、29年度は前年度の各自の積み残し調査を含め、海外調査を集中的に行っていく予定である。まず、各自が蓄積してきた人的ネットワークを基礎としながら、新たに調査対象企業、インタビュー対象者の開拓も行う。海外調査に関しては、メンバー各自の専門分野の特色とともにその学際性をより生かすため、可能な限り分野の異なる複数研究者が共同調査を実施するように計画を拡充する。さらに、国内調査についても、グローバル展開をしている日本企業、あるいは海外企業の日本支社にも調査を依頼し、経営理念の海外伝播に関する実態の把握を行うため、複数名での共同調査を実施する予定である。それと同時に、老舗企業の経営理念継承について、国際比較が可能であるか否かの調査にも着手する予定である。
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