当年度は、昨年度までに積み残した2つの課題に取り組んだ。第1に、1970年代の米国において会計基準設定のアウトソース先が会計原則審議会(APB)から財務会計基準審議会(FASB)へと変わったことの影響を研究した。公認会計士協会の下部組織であったAPBとは異なり、FASBは専ら会計基準設定を担う恒久的な機関として設立された。また、ボードの性格もAPBの「大人数・利害調整型」からFASBの「少人数・独立専門型」へと変化した。このようにFASBのボード自体は小規模であるが、その専門スタッフの多くは会計士であり、依然として人的リソースは会計プロフェッションに依存していた。これをカバーするためにデュープロセスが採用され、「書かれた概念フレームワーク」が必要とされたのであり、その結果、FASBは新しい会計基準を大量に発行することによって、自らを正当化しなければならなくなったのである。以上の研究結果については、2020年度中に学術論文として公表する予定である。 第2に、アウトソースの有無による会計情報の有用性の違いを明らかにしようと試みた。米国では企業会計と地方公会計の基準設定は、いずれも民間にアウトソースされており、しかもアウトソース先が財務会計財団(FAF)の傘下にある組織(FASBとGASB)である。これに対して、日本では企業会計の基準は民間(ASBJ)にアウトソースされているが、地方公会計の基準は事実上、国家機関である総務省が設定している。そうした相違が会計情報の有用性に違いをもたらすか否かを検証すべく、公会計由来の財務健全性指標と地方債格付との関連性を日米で比較した結果、米国の州では明確に「公会計-格付関連性」が発現しているのに対し、日本の都道府県および政令市ではそれが現れていないことが明らかになった。以上の研究結果は海外の学会で報告し、現在、国際学術誌に投稿中である。
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