本研究は,資料と聞き取り調査を駆使した探索的な調査を行い,日本の大手監査法人において女性会計士の増加・定着を阻害する要因を明らかにすることを目的としている. これまでの研究(2016年度から2018年度)は,日本の4大監査法人を対象とし,大手監査法人において女性会計士が男性会計士と同等に働いていくには,障害が多いことが明らかにされた.さらに,2019年度は,準大手監査法人で女性会計士が直面する問題を検討した.検討の結果,準大手監査法人の多くは,大手監査法人と同様に昇進しなければ働き続けることが難しくかつ複線という働き方が一般的に受け入れられていないことが明らかにされた.さらに時短制度で働く女性会計士を評価することが難しい風土が根付いている.この状況は,特にライフイベントを抱える女性会計士が働き続けることについて困難をもたらすと考えられた.準大手監査法人での働き方の特徴として,品質管理部門を代表とする間接部門へ人材を供給することが難しい状況が挙げられる.このことは,準大手監査法人で働く女性会計士は,ライフイベント等があったとしても,基本的に監査部門で働き続けることを意味する. 2020年度は,準大手監査法人でパートナーとして働く会計士へのインタビュー(20名)をベースに,準大手監査法人での働き方にどのような形で社会規範や雇用慣行が埋め込まれているのかという点を深めた.具体的には,日本の準大手監査法人における長時間労働は,大手監査法人と同様に日本的雇用慣行の一部と専門職ゆえに派生する雇用慣行(定期間内に昇進しなければ居ずらくなる)の一部が相互に関連している点にあると考えられた.そして,業務構造を遠因とした長時間労働が昇進の要件となり,家庭生活と仕事の両立が犠牲にされてきたことが明らかにされた.
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