研究課題/領域番号 |
16K04006
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
大沼 宏 東京理科大学, 経営学部経営学科, 准教授 (00292079)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 外国子会社 / コーポレートガバナンス / 経営者属性 / 租税負担削減行動 / 取締役会 / 受取配当金 / DID分析 / 非線形関係 |
研究実績の概要 |
本研究年度においては①租税負担削減行動と負債比率の関係②外国子会社受取配当金益金不算入制度と企業行動の関係③移転価格税制適用企業の企業価値評価に影響を及ぼす要因について検証を行った。 ①については租税負担削減行動と負債比率の関係から、負債権者である債券投資家や長期貸付金等の貸付者である銀行等金融機関がコーポレート・ガバナンス(CG)に及ぼす影響について考察することを目的とする。分析結果としては、租税負担削減行動を進めていくと負債比率も向上するという補完的関係が発見された。つまり、先行研究が示唆する負債の代替効果よりも負債の増加効果のほうが強く示される。これは日本の金融市場がいまだに金融機関等の間接金融が強いことの結果と考えられる。②については、外国子会社からの受取配当金を益金不算入とする制度改正にともなって国内親会社が外国子会社からの受取配当金を減らすという企業行動が観察された。原因として世界金融危機やタイの洪水の影響などが推測されるものの、それ以外の影響も考えられた。一方で、この制度改正が契機となって、研究開発投資と退職給付費用のような長期的な効果の期待される費用についても減少させる結果となった。③については、移転価格税制の適用を受けた企業を題材に、そうした予想外の事象の企業評価に影響を与えるものは何かを実証的に分析することを目的としている。分析結果としては、役員持株比率(DIR)と累積超過収益率(CAR)との間には非線形関係が発見された。これ以外にも社外取締役比率や外国人持株比率とCARは統計的に有意な関係にあることが分かる。またDIRが一定比率に至るまでCARは高まるものの、その後極値に達した後は徐々にCARは減少することが明らかになった。 上記の諸研究を通じて、租税負担削減行動とCGとが有意に関係することを本研究は明らかにしてきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画立案の段階では外国子会社受取配当金益金不算入制度を題材に取り上げる予定はなかった。しかし、日本会計研究学会の統一論題報告を急遽依頼されたときに調査したところ、租税負担削減行動と当該制度との関係はCGを介して緩やかに連携していることが先行研究によって示されていた。 従って当初の研究計画からやや外れるものの、中心となる研究テーマと合致していると考え、現在の進捗状況は順調に進展していると判断した。ただ、当初設定した研究課題も同時に進めている。将来的に複線的に進める両研究がその成果の中で合流していくことが見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
現在大沼研究室に所属する大学院生である石黒氏との共同プロジェクトとして、経営者属性と利益調整行動に関する研究を進めている。ここで得られるであろう知見は、本研究計画の中核を構成する、取締役会構成のダイバーシティ(多様化)と取締役自身のパーソ ナル・ヒストリーと租税負担削減行動の関連性調査に強く関わると推測される。石黒氏との共同研究プロジェクトを進めて、本研究計画とリンクさせることを検討している。研究見通しとして、利益調整行動と租税負担削減行動とは非常に類似したインセンティブであったり、パーソナルキャラクター、取締役会構造とによって強く結びつくと考えられる。また租税負担削減行動は取締役会のCGと強く関係することから、企業の社会的責任行動(corporate social responsibility activities : CSR)に与える影響も先行研究によって示唆される。 平成29年度は取締役会構造と取締役会のダイバーシティの高さ、およびCSRとの関係を明らかにすることを目的として研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
European Accounting Associationの年次大会で報告する予定で旅費を積算していたものの、リジェクトされてしまい報告機会を失ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度は国際会議で報告する機会を増やしてそのための旅費を増やす。
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