研究課題/領域番号 |
16K04006
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
大沼 宏 東京理科大学, 経営学部経営学科, 教授 (00292079)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | モニタリング機能 / 経営者の自信過剰 / ESG投資 / 利益調整 / 社外取締役 / 機関投資家 / 取締役会 / 非線形的関係 |
研究実績の概要 |
平成29年度は研究実施計画に記載した経営者属性と租税負担削減行動との関連性の研究の基礎である経営者属性について検討することができた。今年度は、具体的には2つの方向に向けた研究活動を推し進めることが出来た。 一つは、租税負担削減行動と企業行動、具体的にはESG(environment, society, and corporate governance)投資を促すものとの間の関係を実証的に検証することであった。分析結果からはESG格付けと企業の実効税率(ETR)との関連性は低く、その一方で環境保全コストはETRを下げる働きがあることを示す。この結果は環境関連投資促進税制は租税負担の削減に有効な役割を果たしていることを示唆しており、機関投資家比率の高い企業においてより顕著となることも明らかにする。更に、この知見はわが国の環境税制優遇制度の政策的評価を示すものであった。別の分析結果からは、企業のガバナンス機能の一つである社外取締役のモニタリング機能は租税負担削減行動を促し、機関投資家からの社外モニタリングも租税負担削減行動に影響を及ぼす。そしてこうしたモニタリング機能がESG投資にもポジティブな影響をもたらすことを明らかにした。 もう一つは、経営者の性格的特徴である「自信過剰」(overconfidence of managers)が企業行動に及ぼす影響についてであった。当初の計画では金融機関出身の社外取締役を抱える企業の租税負担削減行動に向けた姿勢について検証する予定であったが、既にこの分野は他の研究者によって研究されていた。そこで大学院生と共同で経営者の自信過剰が企業の利益調整に及ぼす影響を分析した。分析によって経営者の自信過剰は利益調整を抑制することを明らかになった。 また研究成果の一部がアジア系の英文ジャーナル(査読付き)に採択され、研究計画の一部を進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画でふれた経営者属性の調査という点についてようやく自信過剰という属性が企業意思決定に大きな影響を与えていることが明確になってきた。 今年度の成果としてESG投資との関係性および自信過剰との関係の調査について、まだまだ確たる成果は得られていないものの、その関係性はかなり明確になりつつある。ESG投資と租税負担削減行動は直接に関係するというよりも、企業のガバナンス態勢を介して関係していると考えられる。 経営者属性のなかでも経営者の自信過剰は、経営者自身の性格や行動に過度に自信を持つことを意味することから、結果として現状を正確に把握することが出来ない原因となっていると一般に説明される。こうした属性と租税負担削減行動がどのように結びつくかはまだ調査の途上であるものの、非常に興味深い結果が得られそうである。B
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性としては、前年度まで実施してきた研究計画を今後も推し進めていく予定である。研究計画に関しては、実現可能性の高いものから低いものまで幅広く将来性を探りながら策定してきた。しかし、研究計画が進展して行くにつれて、既存の研究環境、他の研究者の動向、他国の情報、・・・などいろいろな情報がアップデートされてきた。その過程の中で、経営者の属性と企業行動の関係についてはまだまだ未開拓で、その中でも自信過剰との関係が今のところ研究が進展しつつある分野とみられる。一方で、経営者の自信過剰と租税負担削減行動の関係は欧米においても不充分である。今後はこうした経営者の属性を中心に据えながら研究を進めていく予定である。これに加え、具体的な租税負担削減行動を促す税制改正が企業行動に及ぼす影響についても検証を進め、根底に経営者属性が関与することを明らかにすることを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度ヨーロッパ会計学会への出張を予定しており、そのためには研究計画で予定していた以上の資金が必要と思われる。そのため、支出を節約して本年度に回した。それが次年度使用額が生じた理由である。 今年度はヨーロッパ会計学会での報告を行って研究計画遂行に貢献させたいと考える。
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