研究課題/領域番号 |
16K04446
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
黒谷 和志 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (40360961)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 批判的リテラシー / 授業 / 生活指導 |
研究実績の概要 |
1.国外の教育実践研究を検討した。(1)批判的リテラシー論は、テクストが社会的に構築されたものであると捉え、周辺化された声の側からテクストを問い直す実践を展開する。カナダのバスケス(Vasquez,V.M.)は、①学校行事への参加が困難なマイノリティの声に依拠して実践を構想するように、生活上の出来事に根ざした実践を構想する。②地域の環境問題の実態に即して絵本をデザインし直す、更には環境保護の社会的実践に取り組むように、テクストをデザインする過程を重要視する点に実践の特徴がある。(2)オーストラリアの多文化、貧困地域におけるコンバー(Comber,B.)らの研究は、批判的リテラシーの教育を「場に根ざす教育」として構想する。①統改築される「学校」を学びのテーマとするように、「場や空間」を批判的に読み解き、デザインし直す実践が構想される。②アイデンティティ形成・居場所感の形が重要視され、子どもや地域が有する言語的、文化的な資源を包摂した実践が構想される。③場や空間を批判的に読み解く際の足場となる学問上の概念を学習することが重視される。その際、②の視点を踏まえて実践構想される。④子どもを共同探求者と位置づけ、子どもの意見表明が保障される。以上の点に特徴がある。 2.フレイレ(Freire,P.)の「対話と意識化」の過程には、声が聴きとられる場や関係の中で、学習者が主体としての自己を恢復するエンパワメント過程と、自らの生活を変革する主体となるエンパワメント過程とがある。他者としての子どもの声を聴きとる対話、生活現実を批判的に読み解く対話・討論、自己の認識を「学びほぐす」対話・討論が求められている。またフレイレは、抑圧的関係の中で脆弱性を抱える学習者が、自らの潜在力を十全に発揮できるように場や関係を変革していくという教育観に立つ。以上の視点から、日本における学級集団づくりや生活指導における学びの実践を再検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本においても、フレイレの教育理論や批判的リテラシー論に関する理論的な検討が進められ、その実践的な検討もおこなわれているが、批判的リテラシー論が授業・教育実践としていかに構想され、実践されているのかという点については、更なる研究の展開が求められている。本研究は、教育実践研究や授業・教育実践を収集・分析することを通して、批判的リテラシー論を、授業・教育実践論として解明していくことを目的とする。本年度は、まず第一に、主に日本の生活指導研究における学び論の系譜を検討することを通して、日本の教育実践研究において、フレイレの教育理論や批判的リテラシー論が、どのように位置づけられてきたのか(位置づけられ得るのか)について考察を進め、その成果を学級集団づくり(学級づくり)をめぐる論考に反映することができた。第二に、バスケス及びコンバーらによって構想、展開されている授業・教育実践の分析をおこなうことを通して、国外における批判的リテラシーを形成する授業・教育実践が、とりわけ初等教育段階においてどのように展開されているのかについて検討を進め、その一部を学会で発表することができた。第二の点については、これらの授業・教育実践を支えている批判的リテラシーの理論的検討を踏まえた実践分析をおこなう必要があり、関連する諸理論について資料を収集し、分析を進めている。その上で、国外の授業・教育実践の特質を研究論文としてまとめることが今後の課題である。 以上の進捗状況を踏まえ、「おおむね良好である」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1.バスケスによって構想されている批判的リテラシーを形成する教育実践については、個別に展開された実践事例の検討をおこなうことができたが、個々の教育実践がカリキュラム上にどのように位置づけられて展開されてきたのかについては更なる検討が必要である。この点について、引き続きバスケスの諸論考の検討をおこない、バスケスが依拠する理論的基盤も含めて考察した上で、次年度中旬を目処に論文執筆をおこなう。執筆した論文は、学部紀要等に投稿する。 2.コンバーらによる批判的リテラシーの授業・教育実践研究については、更にその詳細を明らかにするとともに、批判的リテラシーをめぐる諸理論の検討を踏まえた実践分析が必要である。リテラシーや批判的リテラシーの教育に関する理論的な検討については、Janks,H.やKalantzis,M. and Cope,B.などによって提起された論考を手がかりとし、それらとの関連を踏まえた授業・教育実践の分析をおこなっていく。これらについては、日本教育方法学会等での発表を踏まえ、研究の成果を論文としてまとめ、次年度下旬に学部紀要等に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に繰り越しとなる助成金はわずかであり、概ね本年度に計画していたとおりの予算執行をおこなうことができた。 次年度については、主に、図書購入費及び関連学会等における研究成果の発表等のための出張旅費での予算執行を計画しており、繰越金についてもその中で執行する。
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備考 |
黒谷和志「子どもの生活現実に根ざす生活指導実践と道徳教育」全国生活指導研究協議会北海道支部編『学びの資料集-つながり、学び合う授業づくりを』(私家版)、2018年1月、1-6頁。
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