研究実績の概要 |
第一に、初等教育段階での批判的リテラシー教育を構想しているルーイソン(Lewison,M.)らの研究を検討した。子どもたちの生活現実、社会的課題、大衆文化やメディア、言語テクストなどを教材とし、「自明性を問い直す」「多様な視座があることを調べる」「問題を社会的、政治的に解き明かす」「社会的公正を求めて行動する」という4つの視点から教育実践を構想している。4つの視点に着目して授業記録を分析し、世界やテクストを社会的に構築されたものと捉える批判的リテラシー教育が、テクストの脱構築や意味の複数性について学ぶ授業をどのように展開しているのかを明らかにした。 第二に、ジャンクス(Janks,H.)によって構想された批判的リテラシーの統合モデルの理論的特徴について検討した。ジャンクスは、批判的リテラシー教育を構想する際の鍵となる概念として、「パワー/支配」、「多様性」、「アクセス」、「デザイン/リデザイン」の4つを提起し、その相互関連性に着目することで、教育実践を構想する際の複合的な視点を提起している。さらに、ジャンクスの統合モデルを手がかりとして、初等教育段階において展開されたバスケス(Vasquez,V.M.)及びコンバー(Comber,B.)らによる教育実践を分析することを通して、ジャンクスによる4つの概念が、批判的リテラシーを形成する教育実践においてどのように位置づいているのかを考察した。 第三に、日本におけるリテラシー形成への臨床教育学的アプローチについて検討した。リテラシー形成におけるナラティヴ・エンパワメントの契機を重要視し、ケアの倫理を内包したリテラシーの形成やホリスティックなリテラシー形成を志向している点において、批判的リテラシー教育に重要な提起を与えている。さらに、日本の生活指導・学級集団づくりにおける学びの実践を、批判的リテラシー研究の視点から考察した。
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