研究実績の概要 |
かな文字は、多くの子どもが就学前に習得することから容易だと考えられている。しかし、特殊表記(濁音文字(e.g., が)、拗音表記(e.g., きゃ)など)に限ってはそうではない。就学後もこれらの文字・表記に困難をもつ者は少なくなく、中には読み書き障害と診断されるケースもある。就学前教育において、こうした問題を予防するための取り組み、および効果的な読み書き障害への介入方法が求められている。 本年度は、上記の研究を実施するに当たり、先行論文の問題点の検証を行い、その論考を「日本読書学会60周年記念誌」に寄稿した。以下に、その概要をまとめる。 我が国のかな文字習得研究は、アルファベットを用いる欧米の研究で主流となってきた音韻意識研究を基盤として展開されてきた。しかしながら、研究実施者が本年度行った論考では、こうした過去の研究が必ずしもかな文字という音節文字の特性とは適合していない。アルファベット圏で音韻意識研究が盛んになった背景には、アルファベットが観察不可能な音素という心的概念に対応する文字であり、子どもはその音素を自覚することが要求されているということがある。一方、かな文字は音節という一般的に観察可能な単位に対応する文字である。音節を自覚することは容易であり、このこと自体が文字習得の障壁となることは多くはないと考えられる。論考では、このことから、今後のかな文字習得研究においては、かな文字特有の補助的符号のシステム(濁点、拗音表記など)の習得機序を明らかにすることが主要な研究課題となることを指摘した。
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