研究実績の概要 |
かな文字は、多くの子どもが就学前に習得することから容易だと考えられている。しかし、特殊表記(濁音文字(e.g., が)、拗音表記(e.g., きゃ)など)に限ってはそうではない。就学後もこれらの文字・表記に困難をもつ者は少なくなく、中には読み書き障害と診断されるケースもある。就学前教育において、こうした問題を予防するための取り組み、および効果的な読み書き障害への介入方法が求められている。 本年度は、今後のこの分野の研究の在り方を提言すべく日本発達心理学会のシンポジウムで発表を行った。以下にその概要をまとめる。 かな文字は清音文字、濁音文字や拗音表記等の特殊表記、合計104 個の文字・表記で構成される。それらを別々に機械的対連合で覚えるということも理論的には考えられるが、実際にはそうではない。幼児は清音文字の知識をベースに濁点の規則、文字の混成規則の当てはめで濁音文字、拗音表記の読みを習得することが明らかにされている。これらは、かな文字に埋め込まれた濁点や混成の規則と、子どもの推論能力が合わさって成立した習得過程だといえる。さらに、清音文字内、濁音文字内の中でも習得に順序性があるが、それは文字の頻度や、類似した文字の有無などに依拠することが分かっている。これも文字側の特性とそれを認知する側の両方が生み出す現象だと理解できよう。読みの発達は、これまで文字体系から遊離した「認知発達」のように捉えられ,文字の特質が等閑視されがちであったように思える。しかし、読む行為の本質を踏まえれば,読み習得の機序の半分は文字体系に規定されていると考えるべきであろう。今後、かな文字の特質に根差した読み習得研究が求められる。
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