本研究は、全学的な内部質保証と分野別質保証との関係性、特に医療教育領域を対象としながら、教育研究とIR実践の応答の観点から、エビデンスや知識、研究成果の妥当性・信頼性を検討するとともに、その応答性を保証する海外の事例や国内IR担当者の準拠・参照枠組みの実態を明らかにすることにより、より効率的で体系的なIRのあり方についてアプローチするものである。 本研究全体を通しての知見として、第1にIR実践に関連する教育研究成果の妥当性・信頼性の基盤は極めて脆弱といえる。これは再現性の危機に代表される科学全体の問題とともに、教育研究におけるそれらへの対応の曖昧性によっても特徴づけられる。第2に海外の事例ではpostsecondary educationとしての枠組みでそれらを保証する枠組みに動きは見られるものの限定的であり、その研究成果に対する基準をめぐる議論とともに、必ずしも実践に対して十分な情報を提供できていない実態が明らかになった。第3にIR担当者の準拠・参照枠組みは担当者自身の専門分野の出自や活動内容に規定される部分が大きいが、課題意識という点では、政策的に唱導される指標や基準に関する基本的概念に対する科学的精査の不在と基礎研究の不足など、第1、第2の部分に共通する問題も確認された。このことがIRの産出するアウトプットへの疑念の一端となり、機能不全の一因になっていることが示唆される。これらのことから、今後準拠・参照されるべき教育研究成果の質を保証するために、学会の査読体制だけでない、中立的かつ統合的観点からの基準についての議論とともに、それに供する共通基盤としての任意団体・中間組織の活動の必要性が指摘される。
|