研究課題/領域番号 |
16K04681
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
杉崎 哲子 静岡大学, 教育学部, 教授 (30609277)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 国語力 / 手書き文字 / 書字支援 / 板書 / ICT活用 / 書表現 |
研究実績の概要 |
平成30年度は「書き文字」の史的変遷の検証を基軸に据えながら、国語力育成に寄与する「文字を書くこと」について追究した。特に、これまでの先行研究の検証や、ヤンゴン日本人学校、本学教育学部附属静岡小学校の国語科教員と共同で行った実践研究の成果をふまえて、公立学校(東豊田小学校)での共同研究に発展させられたことが大きな成果である。東豊田小学校、河野氏の授業展開に際して、児童個々の学びの足跡を確認し評価できるよう助言したことにより、ディープなアクティブ・ラーニングが実現した。そこでは、交流時に、「思考ツール」によって児童個々の学びを助ける「ワークシート」を工夫し、交流後の共有の際の「板書」にも「思考ツール」を生かしていた。「ワークシート」にも「板書」にも、子ども達の学びの足跡が記され、個々に自分の学びを実感することができていた。児童自身が、「書き留める」ことによって、授業研究を進めることができた。正に、子どもと一緒に学びの筋が作り上げられたのである。この研究成果は、第2回「子どもの学び展」や日本国語教育学会静岡地区大会の講話「アクティブ・ラーニングにおける『文字を書くこと』」を通して、地域にも発信できた。 書字・書写的な面では、平成29年度に実施した「評価の検討会」をふまえ、香川県の小学校書写研究会の藤田氏の協力を得て、ルーブリック評価法について検証を進めた。また、過去の留学生Rizka Aulianaさん(インドネシア)の勤務校で授業実践を行い、非漢字文化圏の人に対する漢字指導についての示唆を得た。 ICTの活用については、城南静岡中学校での出前授業を通して、酒井氏と共に効果的な指導を考察して授業実践を行った。「書の創作」についても、最後の書文化専攻生の卒業書展に併せて「書文化を、今」展を開催し、毛筆書に限らず、文字文化を意識して「文字を書くこと」の本質を捉え直す機会を提供した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
校務分掌の絡みでH29年度には海外出張を見送り、研究計画の順序を入れ替えた。したがって、H30年度には海外での研究を実施したのであるが、それと併行して公立学校の協力を得て、研究を進めることができたため、発展段階に差し掛かったと考えている。 書字支援のツールに関しては、産学連携の観点から見送っていた出願の権利問題が解決したため、年末になって、ようやく試作に向けて動けるようになった。ただ、年明けには、「書文化を、今」展や「子どもの学び展」の開催準備で多忙となり、通常の教育業務の予定も詰まっていたため、試作データの作成業者との打ち合わせの時間を確保するのが難しく、現在、第4段階までと予定しているうち、半分の位置まで進んだところである。不要な予算執行となることを避け、慌てて作成を依頼して中途半端な形の試作を繰り返すということがないようにとの意図により、本研究を次年度の前半まで延長することとした。 当初予定した日程を延長して時間を伸ばしてはいるが、それは、学内の公務分掌の事情や産学連携の問題等からの対応であり、適切に判断したものである。内容的には、書字行為の原点に立ち返って地域にも発信し、公立や私立の学校での実践に寄与できている。また、時期がずれ込んだツールの試作も、時間のない中で着実に進んでいるので、研究自体が遅れているわけではない。むしろ、内容に関しては、当初の計画以上に研究の深まりと広がりが実感できていることから、「おおむね順調に進められた」と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、国語の、主に「読み教材」の授業実践における「板書」やそれの視写、また、学習者が個々に記す「ワークシート」やグループでの小黒板への記入等に着目して、授業者と学習者との双方にとっての「文字を書くこと」の意義を問い直してきた。利便性において優位とされるICTではあるが、その功罪を見ていくと、手軽に「手書き」した方がよい場面が明確になってきた。今後は、具体的な国語教材について、ICTの活用が可能な場面と「手書き」こそが有効である場面とを精選して、児童生徒の主体的、対話的な学びの保証とその深化に貢献できる授業展開を検討していきたいと考えている。 一方、「書きやすさ」を保障しつつICT化にも対応できる執筆指導の確立のための支援ツールについては、まずは試作品を完成させて、モニター調査を行っていく予定である。将来的に広く社会に頒布できることを目指すとなると、産学連携の方向で進めるしかなく、実現は容易ではないだろうが、試作段階において検証を重ね、着実に前進していきたい。 「表現」という側面からの「文字を書くこと」については、引き続き、書制作の原点を探るべく、書簡や尺牘、墨蹟等の、日本において継承されてきた文字文化についての追究を続けていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に校務分掌に伴う時間的制約の関係から研究計画の順序を入れ替えて実施したため、使用額に変更が生じた。また、書字支援のツールに関しては、企業側が、途中で共同研究を申し出るとともに、出願の権利の関係で中断することとなった。しかし、今年度の秋になって、その問題が解決し、冬から試作に向けて動けるようになった。しかし、年明けには、研究結果の地域への発信を目的とした展示の開催準備で多忙となり、さらに通常の教育業務も年度末の成績処理等で予定が詰まっており、打ち合わせの時期がずれてしまった。中途半端な形の試作を繰り返すことのないよう、本研究を次年度の前半まで延長することとした。学内の公務分掌の事情や産学連携の問題等からの対応としての適切な判断である。 次年度には、時期がずれ込んだツールの試作を引き続き進めていくとともに、内容面でも、書字行為の原点を更に検証し、今後も学校現場での実践に寄与るよう努めていく。
|