2019年度は、まず、出願の問題で取り掛かりが遅くなっていた「書字支援ツール」の試作を繰り返した。小学校低学年の児童では、感覚面の聞き取りが難しく、微細な調整に対応できないため、成人サイズとして、十分な支援の機能を保証できる形状を検討した。その結果、出願時のポイントの根拠を再確認することとなった。特に注意深く検討したのは、手掌の内側の親指の付け根部分をどの程度に開くかである。親指以外の手指の骨の方向が手前から向こうへと高く山形に持ち上がったアーチを描くのに対して、親指は、水平面(机)に平行な形でアーチを描いて筆記具を支えている(対立運動)。親指付け根の関節は可動域が広いため、不安定にならないようにしながらも拘束を避ける必要がある。そして、こうした支援具の形状がその機能を十分に発揮するには素材の選定が重要であることが分かった。 また、国語の授業実践に関しては、授業者と学習者との双方の「文字を書くこと」の意義を問い直すとともに、「書き記されたもの」について検証して、研究成果を教育現場に還元できるように務めた。東豊田小学校では、授業者が「思考ツール」を示して思考過程を可視化し、それが「伝えること(考え)を明確にする」ための道案内の機能を果した。学習者自身には、特に交流や対話の時に「ワークシート」が重要であり、クラスでの共有には、「板書」が有効に機能した。土肥小中一貫校では、ICTを活用した書写の授業展開の構想に関わって、その効果を検証した。 さらに大学生に対して現場の実践を紹介するとともに、「手書き」について考える機会を提供した。これを発展させて、大学の図書館ギャラリーにおいて「手書き展-子どもの学びを考えるー」を開催し、広く一般にも伝えることができた。教員養成という視点からは、板書計画を立て、それをパワーポイントで示すことによって、学びの筋を作る必要性を伝えることがきた。
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