研究課題/領域番号 |
16K04853
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
奥 英久 神戸学院大学, 総合リハビリテーション学部, 教授 (30248207)
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研究分担者 |
渡辺 崇史 日本福祉大学, 健康科学部, 教授 (30410765)
坊岡 正之 広島国際大学, 総合リハビリテーション学部, 教授 (90352012)
佐野 光彦 神戸学院大学, 総合リハビリテーション学部, 講師 (30446033)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 印刷教科書 / デジタル教科書 / 印刷物障害 / 評価実験 / NASA-TLX / 調査 |
研究実績の概要 |
本年度は、印刷教科書とデジタル教科書の操作性評価実験と国内外の代表的な大学における印刷物障害学生の支援状況調査およびNASA-TLXのアンケートに簡便に回答するためのプログラムを試作した。 評価実験では、脳性麻痺による印刷物障害学生1名(広島国際大学)、筋ジストロフィによる印刷物障害学生1名・脳血管障害による印刷物障害学生1名(いずれも日本福祉大学)、健常学生13名(神戸学院大学)を対象とした。健常学生では、利き手を使用しない設定の模擬障害者として評価実験を実施した。結果は、まだ統計的処理には至っていないが、障害学生による評価実験では、印刷教科書のPDFファイルをインストールしたタブレットによるデジタル教科書の有効性が示唆された、一方、健常学生による模擬評価実験では、AWWLの変化において、複数の異なる回答傾向が認められた。 支援状況調査では、英国のリーズ大学・北海道大学・立命館大学を対象とした。英国リーズ大学は前年度に調査した米国UCB(University of California Berkley)と同規模の大学で、ノートテイクなどの障害学生支援に学生ボランティアではなく専門家を必要に応じて雇用し、印刷物障害学生のためのメディア変換では必要なスキルを有するRNIB(王立盲人協会)のブランチを大学内に設け対応するなどの特徴があった。一方、北海道大学と立命館大学では、障害学生数は欧米に比較して少ないが、障害学生支援室(北海道大学は特別修学支援室)が図書館と連携し印刷物障害学生へのメディア変換サービスを実施するとともに、サービスで制作したデジタルデータを、共同利用を目的として国立国会図書館が運営する障害者サービスのデータ提供館(全国で60館/2018年3月現在)として登録していた。 プログラムでは、Web上でNASA-TLXアンケート委へ回答できるプログラムを試作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、印刷教科書とデジタル教科書の操作性評価実験と国内外の代表的な大学における印刷物障害学生の支援状況調査を行うとともに、NASA-TLXのアンケートに簡便に回答するためのプログラムを試作した。 評価実験では、対象者数は少ないが、若干名の肢体不自由大学生の協力を得て、開始することができた。また、健常大学生の利き手の動きを制限することにより模擬的に印刷物障害学生の状況を想定する模擬評価実験を実施した。また、国内外の大学における印刷物障害学生の支援状況協調査では、まず英国リーズ大学において、障害学生支援部署が大学外の障害者支援団体からの協力を得てメディア変換サービスを実施しているということを明らかにした。そして、北海道大学と立命館大学において、対象となる障害学生数は海外の大学よりも少ないが、障害学生支援部署と図書館が連携してメディア変換サービスを実施し、得られたデジタルデータの共同利用を目的として国立国会図書館と連携していることを明らかにした。NASA-TLXのアンケート用の回答プログラムでは、パソコン上で回答できるものを試作し、動作を確認した。 以上に示した今年度の研究結果を達成度の観点から評価すると、当初予定していた評価実験・支援状況調査・回答プログラムの試作、のすべてを実施することができた。まず評価実験では、対象となる肢体不自由大学生が少ない状況に対応するため健常者を動作制限して模擬障害学生として実験を行い興味ある結果を得ることができた。さらに印刷物障害学生の支援状況調査では、国内外で3校と少ない調査対象ではあったが、それぞれ興味深い支援状況を明らかにすることができた。さらに、回答プログラムでは、臨床で評価するには至らなかったが、パソコン上で回答できるプログラムを試作できた。これらを総合的に判断すると、中間年である本年度の研究は、概ね順調に推移していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
まず印刷教科書の内容をPDF化しタブレットにインストールして作成したデジタル教科書の操作性評価実験を継続しデータ収集と分析を行う。さらに、代表的な大学における印刷物障害学生の支援状況調査を継続し、国内外の大学における印刷物障害学生の支援状況を分析する。そして、試作したNASA-TLXアンケート用パソコン回答システムの評価実験を実施するとともに、タブレットへの移植について検討する。 デジタル教科書の操作性評価実験では、研究分担者のうち1名が所属大学を退職したため、その大学における評価実験ができなくなった。このため、他の研究分担者が所属する大学での評価実験によるデータ収集と分析を中心として行う。一方、研究代表者の所属する大学では、これまで実施した健常学生を対象とした模擬評価実験を継続し、これまでの模擬評価実験で認められた特徴のグループ化について検討する。 大学における印刷物障害学生の支援状況調査では、これまでに実施結果から、欧米の大学では障害学生支援部署が中心となって印刷物障害学生を支援しているのに対して、わが国で印刷物障害学生の支援を実践している大学では著作権法との関係から大学内図書館との連携で実施されている。最終年度では、可能な範囲で調査を継続する。 試作したNASA-TLXアンケート用パソコン回答システムについては、評価実験を実施するとともに、タブレットによる回答システムについても検討する。 次年度は3年間にわたる本研究の最終年度のため、以上の結果をもとに、①印刷教科書の内容をPDFファイルとしてタブレットにインストールする形式のデジタル教科書を肢体不自由大学生が使用する場合の操作性、②大学における印刷物障害学生支援の現状と課題、③デジタル式NASA-TLXアンケート回答システムの操作性、についてとりまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
[次年度使用額が生じた理由] 今年度は、前年度からの「次年度使用額」を含め[た予算編成においてほぼ当初の計画通りに執行することができたが、初年度における「次年度使用額」が多額であったため、今年度の予算執行において完全には計画通りに支出することができなかった。しかし、今年度の「次年度使用額」は、前年度の「次年度使用額」に比べて1/4程度に圧縮することができた。 [使用計画] 研究代表者の大学での昨年度の評価実験における電子教科書として使用したタブレットは、講義用に常備しているタブレットを講義に影響のない時間帯で使用できたため、新たに購入しなかった。しかし、次年度は、講義を優先する必要があるので、評価実験に使用するために、新たにタブレットの購入を計画している。一方、昨年度までにおける国内外の大学の調査により、印刷物障害大学生に対する支援状況が、海外の大学と国内の大学とで状況が異なっていることが明らかとなった。そこで、次年度においては、可能な範囲で他大学における印刷物障害学生の支援状況に関する情報を収集し、状況の違いを生じさせたげ原因を明らかにするための継続調査を計画している。
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