研究課題/領域番号 |
16K05214
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
久保 明達 藤田保健衛生大学, 保健学研究科, 教授 (60170023)
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研究分担者 |
林 直樹 藤田保健衛生大学, 保健学研究科, 准教授 (00549884)
梅沢 栄三 藤田保健衛生大学, 保健学研究科, 准教授 (50318359)
小林 英敏 藤田保健衛生大学, 医学部, 教授 (80115568)
星野 弘喜 藤田保健衛生大学, 保健学研究科, 准教授 (80238740)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非線形発展方程式 / 数理モデル / 腫瘍浸潤現象 / 非局所項 / 解の存在と挙動 / シミュレーション / 走化性方程式 / ケラージーゲル系 |
研究実績の概要 |
1. 研究代表者は8月にスウェーデンで行われた11th ISAAC Congressに参加し最新の研究成果の発表と関連する研究の情報収集を行った。海外連携研究者のJ.I.Tello氏との走化性方程式の共同研究において提起した走化性モデルにおいて、腫瘍浸潤に対応する場合について成果が得られ、これについて発表した。 2.研究代表者らは数値シミュレーションのためのソフトの最新版を導入し、腫瘍浸潤モデル、走化性方程式の数値実験を試みた。 3.非局所腫瘍浸潤モデルにおいて非局所項をテイラー展開し、十分滑らかな解の存在を示し、各展開項と数値シミュレーションと比較し現象との関連性について特徴付けた。非局所腫瘍浸潤モデルの数学解析はChaplainらの結果があるが、古典解以上の解の滑らかさは期待できない。一方、非局所腫瘍浸潤モデルの妥当性の根拠として、非局所項をテイラー展開し、非局所の範囲を0に近づけたとき、すでに知られている局所型腫瘍浸潤モデル(Chaplain-Lolas)収束することによってその証左とした。しかし、テイラー展開には解の十分な滑らかさを必要とし、実はこれが数学的に保証されておらず、研究代表者はこれを示すことが重要な課題であるという認識に至った。そこで彼らに従い、非局所項をテイラー展開して得られた数理モデルについて十分滑らかな解の存在を示し、非局所腫瘍浸潤モデルの妥当性を保証した。 4.平成29年度藤田保健衛生大学数理講演会を12月に開催した。走化性の研究を中心に最新の結果について講演が行われた。新たな方向性を反映した問題が提起され、討論した。特にケラー―ジーゲル系に「間接的」に第3番目の方程式を加えることで、興味深い多様な結果が得られており、しかもこの枠組みの中に従来の腫瘍成長や浸潤モデルが入ることから、広く生体現象の数理モデルを特徴づける可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下において当初の目標を十分に達成しつつある。 1.研究代表者は海外連携研究者であるJ.I.Tello氏と2つの種の弱い競合を記述する走化性システムについて結果を得ている。今回これにおける強い競合の場合として腫瘍浸潤モデルに対応したものを考え、解の存在と性質について、J.I.Tello氏の協力のもと、共同研究者星野弘喜氏らとともに結果を得た。(掲載予定論文参照) 2.研究代表者らは悪性腫瘍のモデルについて、分子生物学的立場から浸潤過程を特徴付け、それに基づいた数理モデルを立て、コンピュータによるシミュレーションを行い、実験データとの整合性について、医学的立場より共同研究者小林英敏氏、林直樹氏とともに議論した。(掲載論文参照) 3.研究代表者らは数値シミュレーションのためのソフトの最新版を導入し、本課題研究に関連する数理モデルの数値実験を試みた。特に、数値実験において非局所項の扱いに新たな可能性が期待され、これについて引き続き取組んでいる。 4.Chaplainらによって提起された非局所腫瘍浸潤モデルにおいて、その妥当性を主張する根拠となった非局所項をテイラー級数に帰着させる方法において、十分な解の滑らかさが必要である。しかしこれまでの数学解析ではこれに足る十分な解の滑らかさがえられていない。そこで彼らの方法に従い、テイラー展開により帰着された数理モデルの十分な解の滑らかさを保証することで、この非局所腫瘍浸潤モデルの妥当性を保証した。(掲載論文参照) 5.近年、ケラー―ジーゲル系にM.Winkler氏らが唱える「間接的」に第3番目の方程式を加えて得られる数理モデルの枠組みで、興味深く多様な結果が得られており、この枠組みの中に腫瘍成長や浸潤モデルが含まれることから、一般的に生体現象を記述する数理モデルを、このような枠組みでとらえることの有用性が認識され、新たな方向性を得た。
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今後の研究の推進方策 |
1.海外連携研究者であるJ.I.Tello氏との共同研究を、我々の走化性モデルにおける第二式の厳密解が得られることより、これを用いて以下の方向性で推進する。我々が提唱した弱い競合を記述した走化性モデルは、医学的には日常的な状態すなわち治癒も含めた軽い諸疾病との競合モデルと考えられ、強い競合の場合は重大な疾病と考えられる。そうした医学的な観点より、数学的な特徴づけを行う。特にこうした分類上の境界でのこのモデルの解の存在はまだ明らかではなく、医学的にも大変興味深い。 2.新たな数値解析ソフトの導入により、非局所腫瘍浸潤モデルの数値シミュレーションを引き続き進める。非局所項のプログラミンを工夫し、新たな機能を最大限に生かして実行させ、局所型浸潤現象との比較を行う。 3.本課題研究に関連する数理モデルを、研究業績の4.で述べた間接的なケラー―ジーゲル系と捉えることで、本課題研究を新たな方向性で推進する。このモデルには多くの研究結果が集積しており、これらを適用することにより本研究課題の進展が期待される。特に、解の存在と非存在の精密な議論のために、1.と関連して爆発解の存在の研究の進展が期待できる。 4.研究実績の3.で述べたように、非局所腫瘍浸潤モデルの数学解析において、モデルの妥当性を保証するために解の十分な滑らかさは重要であるため、本課題研究における非局所腫瘍浸潤モデルの研究目的をここに絞り、(テイラー展開を用いず)非局所項を一般化した微分作用素とみなして、滑らかな解の存在を示す。 5.今年度が本課題研究の完成年度に当たるため、研究代表者と研究分担者・連携研究者は、適当な時期に平成30年度藤田保健衛生大学数理講演会を開催し、これまでの成果の確認を行うとともに昨年度に引き続き他分野との連携、情報収集と研究討論を行う。
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