硫酸酸性環境中の硫酸塩鉱物形成メカニズムは,環境への鉛溶出抑制に重要な役割を果たしていると考えられている。しかしながら,方鉛鉱から硫酸鉛鉱が形成されるメカニズムや生成環境に関する明確な記述はない。本研究では,研究代表者らがこれまで発展させてきた“ナノスケール空間(ナノ空間)を介した物質移行”,“粒界・ナノ結晶粒・マトリックス拡散の概念を取り入れたナノ鉱物としての取り扱い”をベースに,硫酸酸性環境中の硫酸塩鉱物形成メカニズムにアプローチする。硫酸塩鉱物形成を,ナノ空間を介した物質拡散,ナノ空間内壁で局所的に発現する化学反応で記述できるmechanisticモデルの構築を目指す。昨年度まで,硫酸酸性環境下での反応時間を長くするにつれて,硫酸塩鉱が多量に生成していることがわかっている。陽電子寿命測定の結果からは,ナノボイド生成が硫酸塩鉱生成と関連していることが示唆された。最終年度にあたる平成30年度は,硫酸酸性環境下での反応時間を長くした試料(長時間実験後試料)について,種々の陽電子消滅実験によりナノ空間計測を推進した。併せて液相解析実験を推進し,両者の比較検討を行った。反応時間1日の試料について得られた陽電子寿命は100 ps(16%)と400 ps(84%)であり,これらは,硫酸塩鉱のマトリックス中,粒界に存在するナノボイドにおける陽電子寿命と推測される。反応時間を長くしても,マトリックス中,ナノボイドにおける陽電子寿命に有意な変化は見られなかった。局所的な電子密度に変化がないことを示している。一方で,マトリックス中における陽電子寿命の相対強度は,反応時間15時間では12%に減少した。同時に,ナノボイドにおける陽電子寿命の相対強度は88%に増加した。原子スケールの観点から,粒界に存在するナノボイドが硫酸塩鉱生成に関連していることが示唆された。
|