世界各地のプレート沈み込み帯を中心に、日から年の時間スケールで断層がゆっくりとすべるスロースリップイベント (SSE) という現象が知られている。本研究ではこの SSE を対象とし、測地学的な観測機器による時系列データにもとづいて、SSE の断層すべりの時空間発展を推定するインバージョン手法を、地震活動の情報も考慮できるように拡張することを当初の目標とした。 研究を進めていく中で、地震活動について詳しく調べることで、これまで知られていない興味深い性質がありそうなことが分かったので、当初の目標とは少し方向がずれるが、それらについての理解も目指して研究を進めた。 本年度は、SSEのすべりの時間発展に伴う、媒質中の任意の地点・震源メカニズムに対する応力変化を計算するコードを改良し、房総半島SSEとそれに伴う群発地震活動に適用した。この結果、多くのケースについて、群発地震活動が活発化する時期は計算された応力が極大値をとる時期と良い対応を示した。 さらに、地震の集合としての特徴を表すパラメータである「b値」を、房総半島SSEの期間とそれ以外の期間とで算出した。その結果、ほとんどのSSEの期間中に発生した地震活動では、普段と比べて有意にb値が小さくなることを見出した。b値は地震発生場所の構造的な不均質性や、応力レベル、非地震性すべりの存在などによって変化するとされている。本研究での結果は、房総半島SSEに同期して発生する群発地震の活動様式に、SSEのすべり過程に依存する応力変化が直接的に影響を与えていることを強く示唆するものである。
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