研究課題/領域番号 |
16K05580
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
西山 賢一 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (60363131)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 地すべり / 斜面崩壊 / 火山灰 / 年代測定 / 崩壊発生頻度 |
研究実績の概要 |
本研究では,年代測定に基づく斜面崩壊・地すべりの発生頻度の推定を行うため,以下のように研究を進めてきた. 1.2011年台風12号による斜面崩壊が多発した和歌山県那智勝浦地域(花崗斑岩),多数の地すべり地形が分布する四国山地(愛媛県久万高原町:付加体堆積岩類)と九州山地(宮崎県田野地域:付加体堆積岩類)に加え,本研究開始後に発生した2016年熊本地震被災地(阿蘇カルデラ周辺:火山噴出物),ならびに2017年九州北部豪雨被災地(福岡県朝倉市・大分県日田市:花崗岩類・火山岩類)を対象とし,崩壊・地すべりが発生した山地斜面の地形・地質調査と,年代測定用試料(火山灰および炭質物・古土壌)の採取と測定を実施した. 2.火山灰の分析結果によれば,上記の山地斜面のうち,四国山地と阿蘇カルデラからは7,300年前に降下した鬼界アカホヤテフラが,福岡県朝倉地域からは29,000年前に噴出した姶良Tnテフラが,さらに阿蘇カルデラでは,約3万年前に噴出した噴出した草千里ヶ浜降下軽石が,それぞれ識別された.また,崩壊・地すべり堆積物中から採取した炭質物・古土壌の14C年代測定を行い,和歌山県那智勝浦地域では約3,800年前,宮崎県田野地域からは現代,阿蘇カルデラ周辺からは現代~約1万年前,福岡県朝倉・大分県日田地域からは約200~800年前の崩壊土砂の特定ができた. 3.最終年度となる今年度は,得られた上記の年代測定結果に基づき,地形・地質条件の違いと崩壊発生頻度との関係に関する検討を進め,研究成果のとりまとめを行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,対象地域の地形・地質調査と,年代試料(火山灰・炭質物)の採取を終え,年代試料の分析も終了した.その結果,異なる地形・地質条件の5地域(和歌山・愛媛・宮崎・熊本・福岡大分県境)について,それぞれかなり異なる年代値が得られた.このことは,5地域ごとに,崩壊発生頻度が異なることを示唆する.現状では,和歌山・熊本・福岡大分県境では,数100年おきに,愛媛と宮崎では数1000年おきに,それぞれ山地斜面での土砂移動が繰り返されてきたと推定される. 地質ごとにみると,頻度が高い和歌山は花崗斑岩,熊本は火山噴出物,福岡大分県境は花崗岩と火山岩からなり,相対的に低頻度の宮崎と愛媛は付加体堆積岩からなる.事例は少ないが,特に四国・九州山地を構成する付加体堆積岩からなる斜面では,同一斜面での崩壊発生頻度が低く,花崗岩類・火山噴出物からなる和歌山・熊本・福岡大分県境での崩壊発生頻度が高い傾向が認められる.
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今後の研究の推進方策 |
西南日本の5地域を対象とした崩壊・地すべり発生頻度の推定は,上述のように,主に完新世における活動履歴を検討することができた.事例は5地域と少ないものの,地形・地質条件が異なる各地域ごとに,崩壊発生頻度にある程度の差異があることが明らかになりつつある.今後は,5地域の地形・地質条件の詳細な違いを検討することで,崩壊発生頻度に影響する地形・地質因子の抽出を進める予定である. しかしながら,崩壊の誘因についてみると,和歌山と熊本は,いずれも他地域よりも地震履歴が多いことから,崩壊誘因は豪雨だけとは限らず,地震起源のものも含まれる可能性が高い.地震起源と豪雨起源の崩壊イベントの識別は概して困難が予想されるが,地形・地質学的な手法を用いて両者の識別が可能かどうか,今後の検討の中で議論を行いたい.
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