研究実績の概要 |
片眼遮蔽により視覚野のシナプス伝達に誘発される可塑的変化は未だ明らかにされていない。ラットやマウスの視覚野では、感受性期に片眼を遮蔽すると遮蔽3日で遮蔽眼刺激に対する反応の減弱が出現し、遮蔽4日以降に非遮蔽眼刺激に対する反応の増強が起きる。本研究では、神経活動依存的な遺伝子発現プロモーターE-SAREを用いて同側(非遮蔽)眼刺激に反応する視覚野細胞(非遮蔽眼優位細胞)をあらかじめ蛍光標識した視覚野スライス標本に、ケージド・グルタミン酸を用いるレーザー・スキャン光刺激法を適用して、片眼遮蔽により視覚野2/3層錐体細胞の興奮性シナプス伝達に生じる可塑的変化の解析を計画した。平成28-29年度にラットを用いた研究により、遮蔽3日で2/3及び4層細胞から遮蔽眼優位細胞への単一興奮性シナプス後電流(unitary EPSC,uEPSC)の数が減少し、遮蔽6日で2/3、4、5層細胞から非遮蔽眼優位細胞へのuEPSCの数および振幅が増加する結果を得た。更に、EPSCの量子振幅とペアード・パルス比率の解析から、片眼遮蔽によるこれらの興奮性シナプス伝達の可塑的変化は主にシナプスの数の変化による可能性が強いことを示唆する結果を得た。平成30年度は、片眼遮蔽後の非遮蔽眼優位細胞におけるuEPSCの増大にT型Ca2+チャネル依存性長期増強(T-LTP)が寄与するかを検討した。実験には、片眼遮蔽による非遮蔽眼刺激に対する反応の増強とT-LTPの両者が起きないTNFα欠損マウスを用いた。野生型マウスにおいては、非遮蔽眼優位細胞に誘発されるuEPSCの数と振幅が6日間の片眼遮蔽により増大した。しかし、この増大はTNFα欠損マウスでは見られなかった。これらの結果は、T-LTPがuEPSCの増大を介して片眼遮蔽後に生じる非遮蔽眼刺激に対する視覚野細胞の反応の増大に寄与することを強く示唆する。
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