研究課題/領域番号 |
16K07025
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
杉原 泉 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (60187656)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | げっ歯類 / 霊長類 / マーモセット / 小脳 / 非運動機能 / 核磁気共鳴画像(MRI) / 第I脚 / 軸索投射 |
研究実績の概要 |
小脳は運動機能のみならず、各種非運動機能にも関与することが、ヒトの臨床症状や画像解析から示されている。しかし、小脳の非運動機能の基盤となる入出力の神経回路機構は十分には明らかにされていない。本研究では、ヒト小脳での非運動機能部位を霊長類とげっ歯類の小脳において正確に同定した上で、マウスを用いた系統的解析(特異的神経標識による神経回路解析、マウス行動解析、形成発達機構解析)により、小脳の非運動機能の神経基盤を解明することを目指している。そのために、平成28 年度には、ヒト、霊長類、謡歯類の間での小脳小葉構造の相同性を確認した。ヒト小脳の各小葉、特に非運動機能関連とされる第I脚、第II脚、虫部第VI小葉が、それぞれ謡歯類小脳のどの小葉と相同であるかを検討するため、ヒト小脳標本、およびニホンザル、マーモセット、ラット、マウスの固定小脳標本にて、7T静止MR画像撮影を行い、三次元的小葉構造の詳細を解析した。ヒト小脳において非運動機能を担当するとされる第I脚・第II脚の小葉が、霊長類では命名法が一定しておらず、マウス等のげっ歯類では第I脚のみに相当することを、形態的特徴・神経投射パタンおよび分子発現パタンから確認した。それにより、げっ歯類小脳では、第I脚が、ヒト第I脚、第II脚、の非運動領域に相当することが明らかになった(発表論文)。さらに、ビオチン化デキストランアミン(BDA)による標識単一軸索再構築解析を進めている(著書発表)。非運動機能の神経基盤として、橋核からの非運動関連領域と考えられる第I脚への苔状線維の投射パタンの解析、非運動関連領域第I脚から小脳核へのプルキンェ細胞投射の解析による小脳核内の非運動関連領域が同定されつつある。これらの解析により、小脳の入出力神経回路の全体像の中で、小脳非運動関連領域の入出力神経回路がどのような特徴があるのかを明らかにする解析が進展している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の初年度における主要なテーマである、ヒト小脳での非運動機能部位を霊長類とげっ歯類の小脳において正確に同定する解析が順調に進展し、論文発表まで達成した点が挙げられる。マウスを用いた系統的解析(特異的神経標識による神経回路解析、マウス行動解析、形成発達機構解析)により、小脳の非運動機能の神経基盤を解明する研究は、遺伝子改変技術の導入も可能で将来的な発展が大きいと考えられる。そのためには、ヒト、霊長類、げっ歯類類の間での小脳小葉構造の相同性の確認が不可欠である。我々の解析により、ヒト小脳の各小葉、特に非運動機能関連とされる第I脚、第II脚が、サル(マカク)とマーモセットでは文献により一貫性がなく定義されており、げっ歯類では従来からの命名で第I脚とされている小葉がヒトの第I脚、第II脚に相当するという、これまで全く考えられていたことのない知見が得られた。これにより、今後の小脳の非運動機能の解析が、げっ歯類を含んだ動物種において効率よく行われることが期待される。 さらに、平成28年度においては、単一軸索解析を含む小脳入出力軸索投射の解析も順調に進展し(論文発表準備中)、また、小脳の非運動機能関連とされる第I脚に注目した、小脳の区画構造の発達形成過程の解析も進展した(論文投稿中)。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の初年度分は大きく進展したので、それ以降の計画も順次推進していく。まず、初年度から勧めていた、小脳非運動機能領域に特異的な入出力神経回路、特に大脳-小脳間の回路を構成する橋核からの投射と、プルキンエ細胞・小脳核細胞の投射に関して、マウスにおける単一軸索再構築法を含む解析を行い、小脳全体の中でのこの領域入出力投射の特殊性を検討する。平行して、マウスを用いた小脳の形成発達過程の解析を行い、小脳非運動機能領域が特殊な発達過程によって形成されるのかどうか、哺乳類小脳に独特の特殊な部位であるのかどうかを検討する。神経系の形成発達過程の理解は成獣での神経機能の理解のために大きく貢献すると考えている。マウスで非運動機能関連部位である可能性がある第I脚と虫部第VI、VIIに特有の縞構造を作って発現するプロトカドヘリン10 (Pcdh10)の発現がlacZ発現により可視化されたOL-KOマウス(Pcdh10-lacZマウス)での解析が特に有用と考えられ、それを推進する。 さらに、新たに始める実験として、以下の2種類の実験に取り組む準備も始めていく。(1)小脳核の一部の細胞集団にCreが発現するマウスを導入し、Cre依存性AAVベクターによる標識法をもちいて、推定された小脳非運動機能領域に由来する小脳出力投射に関して、より精緻な解析を行い、その出力が視床のどの部分を経て、大脳のどこに投射するかを明らかにする。(2)マウスにおいて推定された小脳非運動機能領域を部分的に破壊し、生じる行動異常を行動解析実験で明らかにし、マウスにおいて小脳性高次機能障害モデルが作れないかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度における研究経費の増加が年度途中で見込まれたため、消耗品費用などにおいて十分に計画的に支出して経費をできる限り節減したこと、そして、旅費(国内学会出席)に関して、一部は日帰り圏内での学会開催だったため旅費を節減できたことが、大きな理由である。次年度における研究経費の増加とは、まず、東京医科歯科大学の動物実験センターのマウス飼養保管費用の値上がりである(値上額は不明)。もう一つは、当初は国際学会出席の旅費を予定していなかったが、小脳研究学会(5月、カナダでの国際学会)において講演を依頼されたため、成果発表の目的で旅費の一部(または全部)をこの科研費から支出して出席することである。
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次年度使用額の使用計画 |
東京医科歯科大学の動物実験センターのマウス飼養保管費用が値上がりするために動物飼育費の支出が当初の予想よりかなり多くなることが予想されるので、それに充当する。さらに、当初は国際学会出席の旅費を予定していなかったが、小脳研究学会(5月、カナダでの国際学会)において講演を依頼されたため、旅費の一部(または全部)をこの科研費から支出して出席し、本研究の成果を講演の中で発表する。また、本研究が順調に進展するように、計画的な支出をしていく。
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