小脳は運動機能のみならず、各種非運動機能にも関与することが、ヒトの臨床症状や画像解析から示されている。しかし、小脳の非運動機能の基盤となる入出力の神経回路機構は十分には明らかにされていない。本研究では、ヒト小脳での非運動機能部位を霊長類とげっ歯類の小脳において正確に同定した上で、マウスを用いた系統的解析(特異的神経標識による神経回路解析、マウス行動解析、形成発達機構解析)により、小脳の非運動機能の神経基盤を解明することを目指した。当初の研究期間(平成28-30 年度)の主要な成果としては、①ヒト・非ヒト霊長類小脳において非運動機能関連とされる第I脚・第II脚は、齧歯類小脳では、第I脚と呼ばれる小葉がこれに相当することを発見し、②運動領域と考えられる虫部第VI-VII小葉と第I脚の区画構造の特異な形成過程を解明し、③小脳におけるプロトカドヘリン10 (Pcdh10)の発現陽性領域が、非運動領域の多くを含んでいることを明らかにし、④単一軸索再構築解析により、非運動機能の神経基盤として大脳から小脳への入力を中継する橋核からの小脳投射に関して、非運動関連領域と考えられる第I脚・傍片葉・虫部VIb-VII小葉へは、特に橋核の吻側、内側、外側が投射することを明らかにした。研究期間を1年間延長した2019年度においては、小脳非運動領域である傍片葉の生後の特異な形成過程を明らかにし、そのほか関連する解析結果を発表した。また、研究期間中に開発された実験手技・解析手法やマウス系統を次の研究につなげるべく維持した。
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