研究課題
濾胞性ヘルパーT細胞(follicular helper T; Tfh)細胞は胚中心形成および活性化B細胞を高親和性IgG抗体産生細胞へ分化させるために必須であることが明らかにされている。転写抑制因子であるBcl6は胚中心B細胞の必須分化因子であり、T細胞においてはTfh細胞分化を誘導するマスター因子である。ADAR1(adenosine deaminase acting on RNA-1)はBcl6の標的遺伝子であることを見出しており本研究ではTfh細胞の分化誘導におけるADAR1の機能の解明している。平成28年度はADAR1がTfh細胞のみならずT細胞の他系統(Th1、Th2、Th17およびTreg細胞)への分化誘導における役割を解明するためにin vitroの実験系を確立して解析を行った。そのために活性化CD4陽性T細胞特異的にRNA編集酵素であるADAR1を欠損したマウスと野生型マウスの脾臓ナイーブCD4陽性細胞におけるTfh細胞やTh1、Th2、Th17およびTreg細胞への分化誘導実験を行った。その結果、in vitroにおけるTfh細胞の分化誘導に関しては野生株型と比較して標的遺伝子であるBcl6の発現量に依存的な変化を確認することができなかった。他系統のT細胞の分化誘導実験でも同様に野生株型と有意な差は認められなかった。その結果、ADAR1がTfh細胞の分化誘導の初期段階で及ぼす影響は限定的であることが示唆された。また他系統への分化にも影響しないことがわかった。既報であるがBTBに結合できないようにBcl6に変異が入ったマウスでは胚中心はできないが、Tfh細胞の分化は正常に行われていることが既に見出されている。今後はこのような事象との関連性も追求していく。
2: おおむね順調に進展している
平成28年10月から平成29年3月までの予定されていた研究計画はおおむね順調である。実験基盤の整備から、Tfh細胞の分化誘導におけるADAR1の機能解明のために行ったin vitroの実験の多くを成果として得られた。Tfh細胞への分化転換実験の一部やChIP解析など実験環境の整備が間に合わずに行われてない実験があり、次年度に遂行を予定している。
平成28年度の計画で未実施の実験を行うとともに、in vivoの実験基盤を整えて平成29年度の予定していた実験を同時進行的に進める予定である。
平成28年度は縮小整理されていた実験動物(マウス)やセル・ラインを整備してin vitroおよび平成29年度におけるin vivoの実験が遂行できるように基盤を整えていた。また既に基盤が確立した実験に限定して実験を進めた。これらの理由により、当初予定していた物品購入費などが次年度に繰り越された。また平成28年度(10月~3月)では学会発表の機会がなかったため、旅費を使用することができなかった。以上の理由により次年度使用額が生じた。
平成28年度の予算と時間は基本的なin vitroのデータとマウス(ADAR1コンディショナルノックアウトマウス)を実験に使用できるようにするまでのプロセスに使用した。平成29年度はノックアウトマウスを使用したin vivoの実験も再開できる見通しであり、平成28年度の研究計画で遂行できなかった実験を同時並行して施行予定である。そのため、予算は前年度の繰越と本年度の請求分を合わせて使用する見込みである。
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