研究課題
2015年度までに,ヘテロクロマチンプロテイン1(HP1)を脳特異的に欠損したマウス(cKOマウス)にテストバッテリー方式の行動解析を実施したところ,オープンフィールドや明暗往来テストなどの新奇場面において低活動性を呈した.また,強制水泳場面での無動時間の増大も同時に見られ,不安・うつ様の病態モデルで見られる行動特性が確認された.2016年度はこの行動特性が不安・うつの表現型か否かを検討する目的で,ヒトに処方される抗不安薬(ジアゼパム)および選択的セロトニン取込阻害薬(SSRI)であるフルオキセチンを投与して,行動薬理学的解析を実施した.その結果,低活動性はどちらの薬物によっても改善されることはなく,cKOマウスの低活動性は少なくともGABA神経伝達回路,セロトニン神経伝達回路の機能障害に起因する物ではないことを確認した.また,cKOマウスの低活動性の原因の一つとして,無感覚状態(anhedonia)を想定して新たな行動解析(ショ糖選好テスト)で検討したが,ショ糖に対する選好性はcKOマウスも対照群のマウスと同程度であり,無感覚状態の可能性も排除された.そこで,cKOマウスの低活動性はドーパミン神経系機能の不全であることを仮定して,ドーパミン作動薬を用いた予備的解析を行った所,cKOマウスの活動性上昇は対照群と比較して,より顕著なものであった.上記の行動解析とは別に,脳内での遺伝子発現の変動を検討するために,不安,うつなどに関わる神経終末が多く集まる領域(線条体,大脳皮質,海馬,刺傷,視床下部)を試料として,mRNAのマイクロアレイ解析を実施した.現在,この結果について分析を行っている.また,cKOマウスでは脳組織の構築に障害がある可能性があることから,Neurosphere法により,神経幹細胞の増殖や各種神経系細胞への分化能についても検討を行った.
2: おおむね順調に進展している
当初目的としていた行動薬理学的解析はおおむね実施できた.また,新たな行動解析を加えることで,cKOマウスの行動特性について別の行動薬理学的解析,特にドーパミン神経系に関わる解析について予備検討を行うことができた.mRNAの発現アレイ解析,Neurosphere法による解析もほぼ終えており,おおむね順調に進展していると言える.
29年度以降は,行動薬理学的解析と発現アレイ解析を詳細に検討して,候補となる神経伝達経路あるいは脳領域の同定を推進する.それらの候補経路,領域でのエピジェネティック因子,特にヒストンのメチル化の変化についてChIP-qPCR解析を行い,HP1の標的遺伝子のヒストン修飾の状態を明らかにする.
購入予定であった,行動解析用デスクトップPCおよび解析用プログラム(新規コンピューターの購入およびプログラムのアップデート)利用する行動解析を次年度以降に繰り下げたため.
予定していた行動解析(尾懸垂テスト)の実施の可否を判断し,実施する場合は当初想定していたコンピューターおよびプログラムを購入する予定である.実施しない場合は,免疫染色用の抗体の購入に切り替える予定である.
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
BMC Neuroscience
巻: 18 ページ: -
10.1186/s12868-017-0350-7
Scientific Reports
巻: 7 ページ: 42888
10.1038/srep42888
Frontiers in Behavioral Neuroscience
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.3389/fnbeh.2017.00075.