研究課題
細胞内のシグナル伝達を行う上でタンパク質の可逆的リン酸化は非常に重要な役割を果たしているが、その基質特異性やシグナル伝達における役割など十分な知見が得られていない。本研究では、細胞内におけるタンパク質間のリン酸化ネットワークの網羅的な解析を目的とし、in vitro反応試験によって得られた基質情報から各キナーゼの基質モデルを構築し、キナーゼの生理条件下における基質の予測および検証を行う。本年度の研究では、これまでに取得した、約350種のヒトキナーゼを用いたin vitro反応試験の結果をもとに、生理的条件下におけるキナーゼ基質の予測を行った。最初に、各キナーゼの基質モデルを部位特異的配列マトリックス(position-specific sequence matrix, PSSM)により作成した。次に上述のPSSM、ヒト培養細胞のリン酸化プロテオーム解析によって取得した大規模なタンパク質リン酸化情報、およびタンパク質間相互作用情報を用いて、生理的条件下におけるキナーゼ-基質間情報を予測した。現時点において、約200キナーゼと5,000タンパク質間における約100,000個のキナーゼ-基質間情報を予測できている。実際の実験データとin silicoの予測情報を照らし合わせた結果、非常に良い一致を示したことから予測法の妥当性が示された。一方で、実験データ、情報量の不足などからキナーゼ-基質間情報を予測できないキナーゼが多く存在しており、より多くのキナーゼをカバーすることが次年度の課題である。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目標であった、キナーゼの基質モデル作成と、その情報に基づく生理条件下の基質予測は達成しており、研究計画は順調に進行していると考える。一方で実験データがある350キナーゼの内、約200個のキナーゼについてのみ基質予測がなされており、カバー率を向上させることが今後の課題である。
当初の計画に従い、予測したキナーゼ基質の妥当性を評価するために、阻害薬刺激やsiRNAで特定のキナーゼの活性や発現を抑制することによる予測基質のリン酸化の変動量を確認する。基質予測がなされなかったキナーゼが存在する理由として、キナーゼ組換え体を用いたin vitro試験によって得られる基質情報が少なく、抽出した基質モデルの信頼性が低いといった理由が考えられる。解決策として、前分画や高深度測定法を併用して、より大規模なin vitro基質取得を行う。
研究の進捗は十分であったものの、測定機器の故障により追加実験(キナーゼのin vitro基質の高深度測定)が実施できなかったため。
前年度、実施できなかった研究の消耗品(試薬、ガラス器具等)の購入に充てる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
J Proteome Res
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http://www.pharm.kyoto-u.ac.jp/seizai/