研究課題/領域番号 |
16K07487
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
西野 貴子 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20264822)
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研究分担者 |
加藤 幹男 大阪府立大学, 高等教育推進機構, 教授 (30204499)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 蛇紋岩適応 / 生態型 / 生態的分化 / 種分化 / 土壌生態型 / 適応 |
研究実績の概要 |
サワシロギクは、生育地に対応した湿地型と蛇紋岩型の生態型があり、さらに蛇紋岩型では集団ごとの生態的な分化が大きい。こうした集団ごとの生態的分化は、前年度の播種実験から蛇紋岩耐性の違いに起因することが明らかになっている。 この蛇紋岩への耐性として、蛇紋岩地帯への侵入時に即座に反応する植物側の生理機能といった直接的な作用が一番に考えられるが、一方、土壌微生物などのほかの生物との共生のような間接的な影響も考えられる。そこで今年度は、種子と土壌の滅菌条件を組み合わせ播種し、各生態型の発芽時の微生物の影響の有無を調べた。また、次世代シーケンサーにより開花期の各生態型生育地の土壌微生物群集解析から、生長時に影響する細菌群のスクリーニングを行った。 非滅菌土壌と滅菌土壌において発芽率と本葉展開率は大きく変わらなかったが、一方で滅菌処理した種子を播種した場合、発芽率が低下した。特に、蛇紋岩土壌において蛇紋岩型Aは非滅菌処理の種子を播種した時と比べて有意に低下した。このことから種子表面に発芽時に影響する物質や微生物が存在する、あるいは種子の滅菌のダメージの影響が考えられる。しかし、栽培用土において滅菌処理した種子を播種した場合は、非滅菌時と比べて有意差がなかったことから、滅菌のダメージは考えにくい。土壌微生物群集解析では、蛇紋岩型生育地において特異的な細菌は検出されなかった。このことから蛇紋岩土壌で生育するためには土壌自体に存在する微生物よりも、種子表面の物質や微生物が影響し、種子を通じて次世代に発芽時に補助するような微生物が伝播されていることが考えられる。今後、種子表面の微生物や物質の単離、内生菌の検討を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生態的分化の実態調査としての現地調査は前年度から継続して行ったため、前年度の様子がわかっていたために時機を逃さずに調査をおこなうことができた。また、前年度に明らかにした各生態型集団の蛇紋岩耐性のスクリーニング結果をもとに、今年度の播種実験の条件を組めたため、発芽と初期生長における蛇紋岩に含まれるNiなどの水溶性物質による阻害と、その発芽と初期生長において作用している種子表面の微生物、もしくは分泌物の存在を明らかにすることができた。また前年度からの継続で行った菌叢解析は完遂し、蛇紋岩耐性に関わる遺伝子の推定のためにRNA-Seqにとりかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度、および当年度で明らかになったことは、サワシロギクの蛇紋岩耐性で大きく作用しているのは、蛇紋岩土壌に多く含まれるNiなどの重金属物質自体が根の生長阻害を起こすこと、また、その発芽と初期生長には種子表面に存在する微生物、もしくは分泌されている物質の違いが蛇紋岩耐性に影響を与えていることである。この2点が関係しているか、種子表面から微生物、もしくは物質を単離する。これまでの結果から、この種子表面の微生物、もしくは物質は、元々、蛇紋岩土壌に存在しているものではなく、植物側で種子を通じて集団内に垂直伝播している可能性が高い。よって、同時に内生菌も単離・培養し、そのはたらきに金属キレート作用や、液胞への輸送作用などがないか、検討する予定である。 また、蛇紋岩耐性にかかわる遺伝子の特定のために、RNA-Seqの解析は継続する。 さらに、このような生態的分化が集団にいつ生じたのか推定を行い、各集団の独自性を保つ蛇紋岩土壌の選択圧の強さと、集団間の遺伝的交流による平均化のバランスがどうなっているのか、SSRやMIG-Seqによる複数集団の遺伝的多型のパラメータ推定から議論を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初に予想した土壌側の要因のみで蛇紋岩耐性の強度に差があるという仮説に対して、当年度の実験結果からは植物側での微生物との共生関係にも影響されている結果となり、予定していた解析と別な解析を優先して行ったために経費の余剰が生じた。次年度には当初の計画どおりの解析に加え、予想外の結果により当年度にできなかった解析を含めて行う予定である。
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