植物の種分化の好例である特殊環境への適応は、特殊環境へ侵入する際、即時にその生理的耐性の有無は定着を左右することになるため、侵入元となる集団の個体に特殊環境要因への生理的耐性が保持されていることが前提である。その後、その生理的耐性の強さにより侵入先での集団の存続が決定されるが、長期間にわたる集団の存続にあたっては、新たな遺伝子流入等によって生理的な耐性は一定でなく変化しうる。さらには特殊環境要因への適応だけでなく、生態的な、特に生活史戦略にかかわるような形質も変わっていくことで、集団ごとの選択圧は大きく異なり、不連続な環境要因の生育地の間では分断化選択がはたらく結果となる。 このような例として、本研究ではキク科サワシロギクの湿地型と蛇紋岩型の生態型を材料に、生態型間における蛇紋岩耐性を中心とした表現型の比較と、生態型を決定づける環境要因の特定、および適応遺伝子群の探索を試みた。 現地調査から、蛇紋岩型の開花がやや遅く、開花開始の体サイズも小さく、さらに種子サイズも変化していることから、種子繁殖への投資が大きくなっていることが明らかになった。また、共通圃場での自生地土壌をもちいた相互移植実験などからも、湿地型間よりも蛇紋岩型間の集団間変異が大きく、発芽時と開花期での蛇紋岩耐性の差は顕著だった。 蛇紋岩土壌特有の複数の要因のうち、諸条件の発芽実験の結果から土壌に含まれる水溶性物質による発芽、および実生生残率の違いが明らかになり、Ni含有培地での実験では湿地型が0.4 mM Ni濃度で子葉が展開せずに枯死するのに対し、蛇紋岩型では5-7割の個体が子葉展開し、ある蛇紋岩型集団では2割が本葉展開まで達した。この結果は、生育地土壌と植物体の元素分析によるNi含有量と対応していた。RNA-seqの結果、蛇紋岩型の根にはより多くのAM菌の遺伝子が確認され、蛇紋岩適応への関与が示唆された。
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