| 研究実績の概要 |
本研究では、学習と資源獲得への時間配分の進化を記述した数理モデルの分析を通して、ヒトにおける著しい技術・知識の蓄積の要因を探索した。要因の候補として、本研究では(1)集団のグループ構造、(2)ニッチ構築（技術・知識を用いて生活環境の改変を行うこと）、(3)多対一伝承（多数の個体から社会学習を行うこと）の３要因を検討した。(1)、(2)の2要因については、前年度までの研究から、特殊な条件が成り立たない限りヒトの技術・知識の蓄積を説明できないという否定的な結果を得た(Ohtsuki, Wakano, & Kobayashi, 2017; Kobayashi, Wakano, & Ohtsuki, 2019)。一方、令和１年度は、(3)多対一伝承の数理モデルを改めて詳細に解析したところ、垂直伝達（親からの知識伝達）の効率が良く、斜行伝達（親以外の大人からの知識伝達）の効率が悪いときに高度な技術・知識の蓄積が起きることが分かった。この条件は、現実のヒト集団における観察と矛盾しない。多対一伝承が、技術・知識が失われる確率を下げることで、その蓄積に大きく寄与するという結果は、現在国際誌に投稿中である(Kobayashi, Kurokawa, Ishii, & Wakano, under review)。まとめると、本研究では、(1)～(3)のうち、多対一伝承が最も有効に機能することを明らかにし、「なぜヒトだけが技術・知識の高度な蓄積を成し遂げたのか」という人類進化の理論における最重要問題の理解に貢献した。今後は、これらの結果を実験で検証していく必要があるが、多対一伝承モデルの分析に想定以上の時間を要し未だ実施には至っていない。令和2年春の実施に向けて準備をしていたが、新型コロナウイルス拡散防止のため、実施を見送った。実験室が使用可能になり次第実施する予定である。
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