研究課題
プノンペンの森林野生生物研究所構内に設置した侵食斜面プロット(斜面傾斜10度、斜面幅1m、斜面長2m)での観測結果を取りまとめた。観測は、2018年9月~11月(期間A)と2019年5月~9月(期間B)に行った。総雨量は、期間Aで529.4mm、期間Bの528.2mmとほぼ同等であったが、裸地斜面からの流出土砂量は期間Aの方が13947.5gで期間Bの8852.9gよりも多かった。裸地斜面の植生状態は、期間Aでは裸地状態を保っていたが、期間Bでは、草本が生育した。そこで、2つの期間における流出土砂量の違いに草本の生育がどの程度寄与したのか、USLEモデルを用いて検討した。モデルパラメータのうち、降雨係数R、土壌係数K、および傾斜斜面長係数LSは、現地の観測結果やプロット設置条件に基づき決定した。これらの結果から、裸地状態であった期間Aの作物管理係数Cを1とした場合、草本が侵入した期間Bは0.89であった。このことから、カンボジアの常緑林森林においても草本の侵入により土壌侵食が抑えられることがわかった。本研究では、森林斜面における3年間の侵食ピンプロット試験も併せて実施した。その結果でも、斜面傾斜10度の森林内においては,林床被覆があれば侵食はほとんど発生しないことを確認している。以上のことから、土砂流出を防ぐためには、林床面被覆の保全と伐採後の植生回復が重要であることがわかった。さらに、森林開発流域における流出土砂量を観測した。その結果、森林開発流域は、単位流域面積あたりの流出土砂量に換算すると、年間1.98 × 10-3 mmで日本の森林と同等の小さな値であった。これらのことは、カンボジアのような平坦な地形では、森林伐採などにより土壌侵食が発生したとしても、侵食土砂が流路に到達しないため、直ちに流域からの流出土砂量の増加へ結びつかない可能性を示唆している。
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Japan Agricultural Research Quarterly
巻: 55 ページ: 177-190
10.6090/jarq.55.177