研究課題/領域番号 |
16K07819
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |
研究代表者 |
小沼 ルミ 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発本部開発第二部環境技術グループ, 主任研究員 (90463075)
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研究分担者 |
大村 和香子 国立研究開発法人森林総合研究所, その他部局等, 主任研究員 等 (00343806)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | シロアリ / 木材腐朽菌 / MVOC / 触角電位図 |
研究実績の概要 |
本研究では、木材腐朽菌とシロアリとの生物間相互作用の中で、木材腐朽菌に由来する揮発性有機化合物が、どのような意味を持つ「情報」としてシロアリに認識され、誘引/忌避行動などを誘発するのかを菌種ごとに解析し、そのMVOC成分を明らかにすることを目的している。今年度は,前回の科研費研究(平成25~27年度の科学研究費補助金 若手研究(B)課題番号25850126「担子菌由来の揮発性メタボライトをトレーサーにした新たな腐朽探知法の確立」)で明らかにしたMVOC成分に対するシロアリの嗅受容細胞の反応を解析した。具体的には,褐色腐朽菌オオウズラタケ(Fomitopsis palustris、MAFF 420001)、および白色腐朽菌カワラタケ(Trametes versicolor、MAFF 420002)のMVOC,13成分を刺激源とし,標品を用いてイエシロアリ職蟻の触角電位測定を実施した。刺激源には,アルコール類3種,エステル類3種,ケトン類2種,セスキテルペン類1種,フラン誘導体1種,直鎖状の炭化水素3種を用いた。その結果、木材腐朽菌が放散するMVOCに対するイエシロアリの触角応答電位は化合物ごとに異なっており,本研究で用いた化合物においてはアルコール類に対して比較的高くなることを明らかにした。一方で,直鎖状の炭化水素では触角応答電位が低いことがわかった。今年度に得られた研究成果をまとめ,学会発表4件(国際学会1件含む)を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,木材腐朽菌が産生する揮発生代謝産物(MVOC)について,シロアリの誘引/忌避行動などを誘発する成分を特定することを目指すものであり,今年度は,主に触角電位測定により木材腐朽菌由来のMVOCに対するシロアリの嗅覚応答の解析を目指した。当初の計画では,今年度は真菌種に対するシロアリの嗜好性の解明を行う予定であったが,シロアリを使用した行動実験系の構築が難航したため,申請者らがこれまでに明らかにしたMVOC成分を刺激源としたイエシロアリの触角電位測定を行った。これによって,木材腐朽菌が放散するMVOCに対するイエシロアリの触角応答電位は化合物ごとに異なっており,本研究で用いた化合物においてはアルコール類に対して比較的高くなることを明らかにした。さらに,試行錯誤の結果,今年度内に行動実験系の構築に成功した。そこで,上記の触角電位測定と同じ刺激源を用いてイエシロアリの行動実験を行い,シロアリ誘引効果のある化合物を突き止めた。以上のことから,本研究の目的に対して現在までの達成度をおおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
シロアリの木材腐朽菌種に対する嗜好性を明らかにするため,平成28年度に構築したシロアリの行動実験系によって,複数の木材腐朽菌種を用いてシロアリの誘引/忌避行動等の観察を行う。また,シロアリの行動に誘引または忌避などの反応が見られた真菌種ついて、真菌生育時に放散されるMVOCを分析する。分析は主に加熱脱着式のガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS; Gas Chromatograph / Mass Spectrometer)によって実施する。なお,MVOCは木材腐朽菌の生育段階によって変化することが既往の研究で明らかになっている。そのため,行動実験で反応が見られた菌種から誘引/忌避行動を誘発したMVOC成分を特定するためには,行動実験時とGC/MS測定時の木材腐朽菌の生育日数,および培養条件を等しくする必要がある。しかしながら,菌株の継代回数等も含めて,異なる培養株の培養条件を完全に一致させることは非常に難しい。そのため,一定期間培養した木材腐朽菌からMVOCを抽出し,抽出液を用いた行動実験およびGC/MSによる成分分析を行うことも視野にいれて研修を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
装置(50~80万程度)の購入が今年度中にかなわず,そのための予算使用を控えたため,差し引き額約70万円が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度は早々に装置購入手続きを行う。
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