水生無脊椎動物である甲殻類や二枚貝では、D-アラニンやD-アスパラギン酸が存在していることが知られているが、クルマエビでは多量のD-グルタミン酸(D-Glu)が雄の生殖腺にのみ特異的に存在していることが明らかとなった。このD-Gluは、精巣のセルトリ細胞と思われる体細胞に局在していることから、精子形成に関与しているものと考えられた。そこで、雄のクルマエビに性成熟刺激を与えた際のD-Glu含量およびグルタミン酸ラセマーゼ活性の変動を明らかにすることとした。 雌のクルマエビでは、眼柄神経節のX器官-サイナス腺から卵黄形成抑制ホルモンが分泌されており、卵巣の発達を抑制的に調節していることから、眼柄を切除すると卵巣が発達するため、眼柄切除による人工採卵が行われている。雄においても、眼柄切除により造雄腺の肥大化や精巣が発達することが報告されていることから、雄の眼柄切除を行い、生殖腺のD-Glu含量およびグルタミン酸ラセマーゼ活性を測定した。その結果、雄クルマエビの片側眼柄切除により、精巣におけるD-Glu含量の増加が認められた。また、眼柄切除をしなくても飼育温度を18℃から22℃に上昇させた個体において、精巣のD-Glu含量の増加が認められたことから、眼柄切除および環境水温の上昇によりD-Gluが積極的に生合成されているものと考えられた。一方、水温22℃において、眼柄切除を行ったものと行っていないものとの比較を行ったところ、D-Glu含量に違いはみられなかった。貯精嚢と輸精管においては、眼柄切除によるD-Glu含量の変動は認められなかった。
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