卵子のミトコンドリアの変異や機能低下がその後維持されるのか、改善されるのかについて検討を行った。ミトコンドリアタンパクのアセチル化が培養液中の脂質含量に影響される知見を得たため体外の卵子形成中にも同様の異常が起きているのかを検討し、同様の異常が起こることが分かった。ミトコンドリアに変異を起こさせるためミトコンドリアへの移行シグナルをつけたCas9の導入を試みたがブタやウシ卵子や細胞に対する十分な導入量が得られずゲノムの変異を誘起することが得来なかった。そこで不良ミトコンドリアのモデルとして卵子や胚盤胞の凍結を行いミトコンドリアのゲノムの細断や機能低下を確認した。その後胚や卵子を培養すると凍結区ではミトコンドリアのゲノムが培地中に細胞外DNAとして放出されることを確認した。一方で機能が低下したミトコンドリアの影響は胚発育後も引き継がれることが示唆された。そこで、SIRT1の活性化が胚の能力を改善するかどうかを、ミトコンドリのゲノムコピー数、ミトコンドリアの機能そしてミトコンドリア由来の細胞外DNA量を指標に検討した。SIRT1の活性化はウシやブタの初期胚や胚盤胞期胚の発生率やその後の受胎率を改善する一方で胚中のミトコンドリアコピー数を減少させ、さらに培地中の細胞外DNAの量を増加させることが分かった。このことはミトコンドリアに残る負のメモリーの一部は培養条件によって除去され胚の質の改善が可能であることを示している。 さらにミトコンドリアのゲノムに変異を惹起させるため、加齢個体から採取した顆粒層細胞を初期胞状卵胞由来の卵子形成に用いたところ、加齢個体の顆粒層細胞に包まれた卵子ではミトコンドリア数が減少し、次世代シーケンサーにて明らかにしたゲノム変異の頻度が上昇することが分かりゲノムの変異をひきおこす要因に顆粒層細胞の老化があることが明らかになった。
|