研究課題
Campylobacter jejuniに起因するギランバレー症候群(GBS)の発症機序は、菌体リポオリゴ糖(LOS)がシアル酸を含むガングリオシド様糖鎖構造を持つことによる自己免疫疾患と考えられている。一方、家畜や食品から分離されるC. jejuniのGBS発症のリスク因子の分布等については調べられていない。本研究では、重要な保菌動物と考えられている鶏および牛由来C. jejuni のGBS発症リスク因子の分布状況を明らかにすることを目的として行なった。平成28年度の研究では、耐熱性抗原によるHS血清型別、LOS合成関連遺伝子オペロンのタイピングを決定すると共に、クラスA-Cに分類された家畜由来菌株からLOSを抽出し、シアル酸の検出を行なった。平成29年度は、供試菌株のMLSTタイプの決定およびPCR法によりシアル酸合成関連遺伝子を検出し、GBS患者由来株と比較した。動物由来株は18のCCタイプに分類され、CC-353 (ST-3911) が最も多く、 続いてCC-464 (ST-4389)、CC-21 (ST-50)、CC-607 (ST-607)が優勢だった。一方、由来に関わらず、HS19型の23株中19株(82.6%)がGBS株の約60%に認められるCC-22 (ST-22)に分類された。シアル酸合成関連遺伝子の分布を調べた所、LOSタイプA、B、Cに分類されたほとんどの株は、由来に関わらず、シアル酸の合成と発現に必要な遺伝子セットを有していた。以上の結果から、HS19、LOSタイプA、MLSTがCC-22 (ST-22)、LOS合成遺伝子オペロン内にシアル酸の合成と発現に必要な遺伝子セットを保有し、LOSにシアル酸を発現している株がGBS発症リスク因子であることが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
平成29年度以降の研究計画では、菌体LOSからのシアル酸の検出、菌体LOSの精製とガングリオシドGM1様エピトープの検出、LOS遺伝子オペロンの次世代シークエンサーを用いた解析、GM1エピトープを有する動物由来カンピロバクター株の動物実験における免疫応答、ノックアウトミュータントの作出によるGM1エピトープの合成に必要な遺伝子の確認等を実施する予定であった。28年度に解析が完了しなかったMLST型の決定、cstII 遺伝子多型の検査およびシアル酸合成関連遺伝子の検出については、PCRとシークエンス解析を進め、予定通り平成29年度前半には終了した。一方、平成29年度以降に実施する予定であった、菌体LOS の精製とガングリオシドGM1 様エピトープの検出およびLOS からのシアル酸の検出は平成28年度に完了しており、研究計画は概ね順調に進展していると判断した。
30年度は、LOS 遺伝子オペロンの次世代シークエンサーを用いた解析とGBS発症リスク要因を有する動物由来カンピロバクター株菌株をマウスに接種し、抗ガングリオシド抗体の産生性について調査し、GBS発症機序であるガングリオシドに対する自己抗体の産生による末梢神経障害の仮説を検証する。
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