研究課題/領域番号 |
16K08030
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
櫻井 達也 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (60547777)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞分化 / 細胞接着 |
研究実績の概要 |
アフリカトリパノソーマ原虫は、ベクター(ツエツエバエ)の口吻・唾液腺内においてエピマスティゴート型虫体からメタサイクリック型虫体に細胞分化(メタサイクロジェネシス)することで、ベクター感染時に失った宿主感染能を再獲得する。したがって、メタサイクロジェネシスは原虫の伝播に必須の生物現象であり、新規アフリカトリパノソーマ症制御法を開発する上で有望な標的となりうる。しかし、その分子メカニズムは完全に未解明である。 Trypanosoma congolenseでは、エピマスティゴート型虫体の細胞接着がメタサイクロジェネシスに必須であることが知られている。本研究では、T. congolenseエピマスティゴート型虫体の細胞接着及びメタサイクロジェネシスの阻害により起こる遺伝子発現の量的・質的な変動を網羅的に解析する。発現に差異が認められた遺伝子群の生物機能を解析し、メタサイクロジェネシスに関わる遺伝子を特定するとともに、メタサイクロジェネシスの分子メカニズム解明を目指している。 当該年度は、Hirumiらの開発したツエツエバエ体内型トリパノソーマ培養法(Hirumi et al., 1992, J. Protozool.)に従い、解析に用いる原虫細胞を調製した。具体的にはイーグルMEMを基礎培地にHirumiらが開発したTVM-1培地を用いてプロサイクリック型虫体を27℃、大気条件下で培養し、エピマスティゴート型ステージへの細胞分化を誘導した。培養フラスコ底面に強力に接着して増殖するエピマスティゴート型虫体の出現を確認し、これをTVM-1培地を用いて維持するとともに、培養上清を繰り返し除去することで非接着性の細胞を除去した。その結果、安定して増殖し、高密度なコロニー状の細胞集塊を形成するエピマスティゴート型虫体を調製することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では、当該年度中に、エピマスティゴート型虫体の細胞接着の阻害によりメタサイクロジェネシスを阻害した際に起こる遺伝子発現の量的・質的な変動を、次世代シークエンサーを用いたトランスクリプトーム解析(RNA-Seq)またはサブトラクティブハイブリダイゼーション法により網羅的に解析することで、メタサイクロジェネシスに関わる遺伝子の候補を絞り込む予定であった。しかし、実験に供するに足るエピマスティゴート型虫体の調製に当初の予定よりも時間がかかってしまったことから、その接着阻害によるメタサイクロジェネシス阻害実験を行うための十分な条件検討を実施することができなかった。このため、上記の遺伝子発現の量的・質的な変動の網羅的解析の実施にまで至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究に用いるエピマスティゴート型虫体を調製できたことから、当初の研究計画に従い、物理的な手法(培養フラスコを揺する等して、原虫細胞がフラスコ底面に接する機会を物理的に奪う)、または原虫細胞表面蛋白質に対する抗体を用いた免疫学的手法により、その細胞接着とメタサイクロジェネシスを阻害する。メタサイクロジェネシス阻害効果を、培養上清中に出現するメタサイリック型の細胞数の減少を確認することで評価し、メタサイクロジェネシス阻害群と対照群それぞれからtotal RNAを抽出する。これを用いて、メタサイクロジェネシス阻害群および対照群の遺伝子発現を、次世代シークエンサーによるトランスクリプトーム解析(RNA-Seq)またはサブトラクティブハイブリダイゼーション法により網羅的に解析し、比較することで、メタサイクロジェネシスに関与する原虫遺伝子を探索する。解析結果を基に、実験群で発現の減少(または増加)が認められた遺伝子をアミノ酸配列から予想される機能・局在毎に分別し、データベース化する。その中から、本研究では、特にシグナル伝達に関係することが予想される蛋白質をコードする遺伝子を細胞分化に関連するシグナル遺伝子の候補とし、優先的に機能解析の対象とする。メタサイクロジェネシス関連遺伝子の候補およびその遺伝子がコードする蛋白質(メタサイクロジェネシス関連候補蛋白質)について、それぞれ詳細な性状解析(局在解析や発現パターン解析等)を行う。候補遺伝子がメタサイクロジェネシスに関与するか否かを、逆遺伝学手法を用いた遺伝子機能解析により検証する。候補遺伝子のノックアウトまたはRNA干渉法によるノックダウンの結果、培養上清中に出現するメタサイクリック型虫体の細胞数を指標に、メタサイクロジェネシスが阻害されるか否かを評価し、メタサイクロジェネシス関連遺伝子を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
エピマスティゴート型虫体の調製が遅れたことにより、交付申請時に計画していたエピマスティゴート型虫体の細胞接着とメタサイクロジェネシスを阻害する実験、およびメタサイクロジェネシスを阻害したエピマスティゴート型虫体(実験群)と対照群の発現遺伝子の網羅的解析と比較を、当該年度内に実施することができなかった。これにともない、これらの実験や解析のために計上していた分子生物学実験用試薬等の購入や次世代シークエンス解析の委託に係る予算の一部を執行しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の予定より遅れているものの、研究計画自体に変更はない。エピマスティゴート型虫体の細胞接着とメタサイクロジェネシスを阻害する条件を決定した後、実験群と対照群それぞれから抽出したtotal RNAを用いて、両者の遺伝子発現を、専門業者(北海道システムサイエンス)による次世代シークエンサーを用いたRNA-Seq解析、または研究代表者自身によるサブトラクティブハイブリダイゼーション法により網羅的に解析し、比較することで、メタサイクロジェネシスに関与する原虫遺伝子を探索する。当該助成金は、そのために必要となる分子生物学的実験用試薬の購入やRNA-Seq委託解析に係る予算として執行する予定である。その後、メタサイクロジェネシスに関与する蛋白質の候補を絞り込み、その分子性状解析や生物機能解析を、翌年度分として請求した助成金を用いて計画通り実施し、本研究課題全体の円滑な遂行に努める。
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