研究課題/領域番号 |
16K08043
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
永野 昌志 北海道大学, 大学院獣医学研究院, 准教授 (70312402)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 卵胞 / 卵子 / 体外受精 |
研究実績の概要 |
近年、ヒトや牛などの繁殖能力の指標として、超音波診断装置によって確認できる卵巣内の胞状卵胞数が用いられている。胞状卵胞数は、卵巣内の原始卵胞数と相関し、原始卵胞数は受精能のある卵子の排卵および正常な発情周期を営むための性ステロイドホルモン分泌などの卵巣の潜在的能力 (卵巣予備能) と正の相関があると考えられている。すなわち、胞状卵胞数が少なく卵巣予備能が低いと推定される牛は、妊孕性が低く、受精卵の生産効率の低いことが報告され、申請者の所属する研究室では、卵巣予備能が低い牛の卵巣内で発育した卵子の受精能が低いことを報告している。牛卵子の体外発育培養では、卵子顆粒層細胞複合体 (OGCs) を用いているが、培養中に顆粒層細胞の黄体化が誘起され、体内で健康に発育する卵胞から分泌されるはずのエストラジオール(E2)分泌量は低下し、プロジェステロン(P4)分泌が増大することが分かった。平成28年度は、体内での卵胞発育に従って発現が高まると報告され、顆粒層細胞の黄体化を抑制する骨形成タンパク質(BMP)-4に着目し、実験を実施したが、BMP-4添加は顆粒層細胞の黄体化を培養8日目程度までは抑制するが、体外発育培養した卵子が核成熟能を獲得する12日目にはP4分泌量が増加していることが明らかとなった。そこで、黄体化抑制の方策として、顆粒層細胞の体外培養時に黄体化を促進することが知られている血清を除去した培養液を用いた卵子の発育培養を試みた。また、卵巣内胞状卵胞数の多い牛と少ない牛の発情周期中における卵胞発育パターンを経日的に確認するとともに、血中E2、P4および卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌パターンについても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
顆粒層細胞の黄体化を抑制し、添加したFSHに応答したE2産生を評価できる体外発育培養系の開発を目的とした。まず、顆粒層細胞の黄体化を促進することが知られる血清を除き無血清培地によるOCGC培養系の開発に取り組んだ。その結果、体外発育培地に卵子の成熟分裂を抑制するCilostamide (5 µM) を添加することにより、体外発育卵子の成熟培養後の核成熟率は0%から17.6%に向上した。しかし、顆粒層細胞からのプロジェステロン産生は抑制されず、血清の除去のみでは黄体化を抑制できなかった。経産ホルスタイン種7頭を卵巣予備能の指標とされる胞状卵胞数が多い群 (High群, n=4) と少ない群 (Low群, n=3) に分類し、卵巣内卵胞数の変化を超音波診断装置により経日的に観察するとともに、血中ホルモン濃度を測定した。その結果、High群においては発情周期中に直径4~8 mmの胞状卵胞数、血中エストラジオール (E2) 濃度および血中卵胞刺激ホルモン (FSH) 濃度に有意な変動が認められたが、Low群では認められなかった。卵胞数においては、High群は発情周期にかかわらず直径4 mm未満の卵胞がLow群よりも常に多かった。しかし、卵胞吸引後3~5日目では、High群における直径4~8 mmの卵胞数がLow群よりも多くなり、吸引後7日目には両群間の差異が見られなくなった。また、血中E2濃度はHigh群の方が高い一方、E2産生を促進することが知られるFSH濃度はLow群の方が高い傾向にあった。 野生動物に関しては、エゾヒグマ、ニホンザル、トラ、ウンピョウ、チーター、アフリカゾウ、ホッキョクグマから精液の採取を行った。
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今後の研究の推進方策 |
血清無添加培地以外にの方法で、P4分泌を抑制し卵子発生能を改善させる方法の開発が不可欠でると考えられる。現在、水生動物由来のAstaxanthinを添加し、E2の代わりにアンドロステンジオン(A4)を添加した培地による牛卵子の発育培養を行っている。この方法により、P4分泌は抑制されることが明らかとなり、現在、研究を進めている。しかし、体内での卵胞発育速度7~10日程度と比較すると12日間の体外発育培養は長すぎると考えられる。培養中に顆粒層細胞は増加し、その中心部に位置する卵子および培養器の底面に接する顆粒層細胞には十分な酸素が供給されず、卵子発育に時間を要している可能性がある。そこで、培養装置底面に通気性のあるフィルムを用いた新たな培養器具を用いてOCGCを培養する方法を検討中である。 体内発育卵子(卵胞)が正常であるかどうかについては体内で発育する卵胞について精査する必要がある。そこで、前述の卵胞発育パターン検討時に採取した卵胞液および顆粒層細胞についてステロイドホルモン合成に関する検討(卵胞液中ステロイドホルモン濃度、各種遺伝子発現)を行う計画である。 野生動物に関しては、体外受精および人工授精に用いるための精液の凍結保存方法を実施している。本研究期間中に動物園で死亡したゾウの卵巣を採取する機会に恵まれ、卵巣から卵子を採取し、培養を行った。しかし、顆粒層細胞の増加も認められず、死亡後体内から卵巣を取り出すまでに時間がかかりすぎていることが原因と考えられた。今後はさらに動物園との連携を深め、死亡個体から卵巣あるいは精巣を迅速に採取する体制を構築したいと考えている。
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