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2017 年度 実施状況報告書

進化的アプローチとプロテオーム解析を基盤とした熱ショック応答機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 16K08625
研究機関山口大学

研究代表者

瀧井 良祐  山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (00419558)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード熱ショック応答 / 転写 / HSF / DNAプルダウン
研究実績の概要

熱ショック応答は、熱ショックタンパク質(HSP)の誘導を特徴とし、主に進化の過程で保存された熱ショック因子(HSF)群によって制御される。熱ショック応答は、温熱ストレスに対する応答機構だけでなく、最近では通常状態における細胞内のタンパク質の質的及び量的制御を司る機構であることが分かってきた。HSF群には4つのファミリー分子が存在するが、特にHSF1が熱ショック応答を制御する。本申請では、進化的アプローチとプロテオーム解析を基盤としてHSF1による転写制御機構の解明をめざす。
我々は現在までに、カエルおよびトカゲのHSF群の分子クローニングを行い、進化的なHSF群の機能の変化について検討を行ってきた(Takii et al 2017)。さらに本研究では、ニワトリと近縁のトカゲのHSF群のスワップ解析により、ヒトを含めたHSF1のHSP70誘導に必要なアミノ酸を明らかにした(未発表)。これらの転写活性化能の異なるHSF1を発現させた細胞抽出液から、新たに確立したDNAプルダウン法を用いて、新規HSF1転写複合体の構成因子の同定を行った。HSF1転写複合体の構成因子として既知のものと、多数の新規の因子を同定した。さらに同定した構成因子の機能スクリーニングを行うことで、HSF1の転写活性化に関わる複数の候補因子に絞り込んだ。さらに同定した因子と相互作用するタンパク質を網羅的に解析し、新たな因子を同定した。その結果、HSF1-A-Bの3者が転写前複合体の形成を促進することが示唆された。今後は、その3者複合体によるHSF1の転写活性化機構の解明と、新たなHSF1転写機構およびそれがプロテオスタシス容量、神経変性疾患やがん形成に及ぼす効果を明らかにする。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

これまでに申請者は、ニワトリ、トカゲ、ヒトのHSF1の比較から、HSF1の転写活性に関わるアミノ酸を同定した。また野生型および変異HSF1を作成し、両HSF1に相互作用するタンパク質を網羅的に解析した。HSF1相互作用タンパク質を同定するために、新規にHSP70プロモーター領域をテンプレートとしたDNAプルダウン法を確立し同法によって、HSF1の転写活性に従って結合量の減少する複数の因子を同定した。この中には、p300やCBPなどの既知のHSF1相互作用因子だけでなく、新規因子が多数認められた。次に、HSF1転写複合体を構成する因子の中でも、HSF1の転写活性を制御する因子を調べるために、約10の因子に絞り、ノックダウン法により熱依存的なHSP70の発現に影響のある因子を調べた。その結果、HSP70の発現を正または負に制御する因子が約半数認められ、その中でもHSP70の発現を強力に促進する因子Aに着目した。因子Aは、これまでにHSF1転写複合体の構成因子としての報告のない新規の構成因子であり、従来、転写との関連は報告されていない。さらに因子Aに対する相互作用タンパク質を質量分析を行い網羅的に解析をし、因子Bが同定できた。因子Bは、既知の転写の促進因子で、HSF1-A-Bの3者が転写前複合体の形成を促進することで、熱ショック応答が起こることを明らかにした。

今後の研究の推進方策

HSF1に相互作用するタンパク質をDNAプローブを用いた沈降法を行い網羅的に解析した結果、複数の新規因子を同定した。特に強力なHSF1転写複合体の活性制御を行う因子Aに着目しその役割の解析を行っている。HSF1の相互作用タンパク質でありかつHSF1の転写活性の促進因子である因子Aのどの領域がHSF1との相互作用に必要か、様々な因子A変異体を作成し、相互作用に必須の領域を明らかにする。また、この過程で因子AとHSF1の相互作用が直接的かまたは間接的か明らかにする。次に、因子Aが熱依存的なHSP70の誘導だけでなく、他のHSP群の誘導にかかわるか調べる。熱刺激時に因子Aは、HSP70のプロモーター領域に呼び込まれることで、HSP70の転写を促進することが考えられる。そこで実際にクロマチン免疫沈降法を行い、因子AがHSF1転写複合体に含まれることを調べ、熱刺激時での経時的な因子Aの挙動について明らかにする。また因子Aが転写のどの段階の促進に関わるかを明らかにするために、因子Aノックダウン細胞を用いて、クロマチンリモデリング因子BRG1やヒストンアセチル化転移酵素群のHSP70プロモーター部位への呼び込みへの影響を調べる。さらに、因子Aを介した新しい転写活性化機構を明らかにするために、因子Aによる沈降後に、網羅的な解析を行い、新しいHSF1転写活性化機構を明らかにする。Aの相互作用タンパク質である因子BとHSF1および因子Aの相互作用領域をそれぞれ調べる。またHSF1, A, Bによる複合体形成、転写の促進機構を解析する。また、因子Aがプロテオスタシス容量や、神経変性疾患、がんに対する影響を調べることで、疾患に対する新しいターゲットを提示できると考える。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] Inhibition of gingipains prevents Porphyromonas gingivalis-induced preterm birth and fetal death in pregnant mice.2018

    • 著者名/発表者名
      Takii R, Kadowaki T, Tsukuba T, Yamamoto K.
    • 雑誌名

      Eur J Pharmacol.

      巻: 24 ページ: 48-56

    • DOI

      10.1016/j.ejphar.2018.01.028.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] HSF1 and HSF3 cooperatively regulate the heat shock response in lizards.2017

    • 著者名/発表者名
      Takii R, Fujimoto M, Matsuura Y, Wu F, Oshibe N, Takaki E, Katiyar A, Akashi H, Makino T, Kawata M, Nakai A.
    • 雑誌名

      PLos One

      巻: 12 ページ: e0180776

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0180776. eCollection 2017.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] The HSF1-PARP13-PARP1 complex facilitates DNA repair and promotes mammary tumorigenesis.2017

    • 著者名/発表者名
      Fujimoto M, Takii R, Takaki E, Katiyar A, Nakato R, Shirahige K, Nakai A.
    • 雑誌名

      Nat Commun.

      巻: 8 ページ: 1638

    • DOI

      10.1038/s41467-017-01807-7.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 染色体関連因子による熱ショック応答の制御2017

    • 著者名/発表者名
      瀧井良祐、中井 彰
    • 学会等名
      生命科学系学会合同年次大会
  • [学会発表] HSF1の活性調節に働くリン酸化部位Ser326は進化的に保存されている2017

    • 著者名/発表者名
      瀧井良祐、藤本充章、Arpit Katiyar、Pratibha Srivastava、中井 彰
    • 学会等名
      第12回臨床ストレス応答学会
  • [学会発表] HSF1 and HSF3 cooperatively regulate the heat shock response in lizards2017

    • 著者名/発表者名
      Ryosuke Takii, Mitsuaki Fujimoto, Arpit Katiyar, Pratibha Srivastava and Akira Nakai
    • 学会等名
      8th International Congress on Stress Responses in Biology & Medicine
    • 国際学会

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公開日: 2018-12-17  

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