今年度はマウス転移モデルから転移促進分子として同定されたEMU1の 1) 分子機能解析と 2) ヒト正常・癌組織における発現解析を主体に研究を行った。 EMU1の分子機能解析:EMU1は細胞外における細胞-基質間接着阻害作用と細胞内における増殖促進作用の2つの機能を持つことが明らかとなり、matricellular proteins の新たな一員であると考えられた。ELISA-like assayにおいて、EMU1はlaminin alpha1 chain peptide AG73に特異的な親和性を示したことから、EMU1の細胞接着阻害には細胞外基質成分であるlamininへの結合が関与することが示唆された。また、pathway analysisやflow cytometric analysisにより、EMU1の増殖促進作用には、cell cycleの促進、特にS期への導入の促進が関与すると考えられた。転移への促進については、発現ベクター導入による安定高発現細胞やCRISPR/Cas9によるノックアウト細胞を作製して、in vivo実験を行ったが、転移への影響は確認できなかった。EMU1分子単独では転移の促進には至らないのかもしれない。 ヒト組織におけるEMU1の発現解析: パラフィン標本を用いた免疫染色では、EMU1タンパクはマウス乳癌では基底膜領域に局在するのに対し、胃底腺壁細胞や膵島β細胞では細胞内に局在していた。また、多くのヒト癌組織でも細胞内に発現が認められた。この局在の違いについて、分子的な解析を行っている。また、癌症例の網羅的mRNA発現解析では、EMU1は全ての癌種では348/1440 (24%)に発現し、乳癌 39/89 (44%)、大腸癌 216/562 (38%) で頻度が高く、高発現乳癌症例は10年無再発生存率が有意に低かった。
|