研究課題/領域番号 |
16K08805
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 宏樹 東京大学, 医科学研究所, 特任講師 (50418654)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ウイルス / ニパウイルス / N蛋白 / 核移行 / インターフェロン |
研究実績の概要 |
マイナス鎖一本鎖RNAをゲノムに持つパラミクソウイルス科のウイルスは、複製の過程を全て細胞質で行うが、その中でモービリウイルス属とヘニパウイルス属のnucleo-(N)蛋白は核と細胞質の両方に局在する特徴的な性質をもつ。 これまで、パラミクソウイルスのphospho-(P)遺伝子から産生される複数の蛋白が宿主細胞のインターフェロン (IFN) シグナル伝達を阻害することが報告されてきたが、申請者らはモービリウイルスのN蛋白も強いIFN阻害活性を持ち、その活性発現にN蛋白の核移行が重要であることを明らかにした。 本研究では、モービリウイルス同様に核移行能を有するヘニパウイルスN蛋白のIFNアンタゴニスト活性を明らかにし、さらに核内外に輸送されるメカニズムおよび核内におけるN蛋白の相互作用因子を検索し、これまで未知であるN蛋白の核移行の意義について解明することを目的とする。 平成29年度は、ヘニパウイルス属のニパウイルスおよびヘンドラウイルスN蛋白が、一連のIFNシグナル伝達経路の中でどの点を阻害するのかについて中心に研究を進めた。 その結果、まずシグナル伝達分子の中心であるSTAT1およびSTAT2の核移行をN蛋白が阻害することを明らかにした。さらに、その阻害活性はN蛋白が直接STAT分子と結合して引き起こすのではなく、細胞質内でSTAT蛋白の高分子複合体の形成を抑制することで最終的にシグナル伝達を阻害するという新たな機構によるものであることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度は、ニパウイルスN蛋白のIFNシグナル伝達阻害活性のメカニズムについて中心に研究を進め、その結果、細胞内で起こる一連のシグナル伝達経路の中でSTAT複合体の形成をN蛋白が阻害することを突き止めた。これは同じパラミクソ科に含まれるウイルス群の中で初めての知見であり、このN蛋白のもつユニークな活性を論文として発表することができた。(Sugai et al., J. Virol, 2017)。よって当初の計画以上に大きな進展が得られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定に含まれる、ニパウイルスN蛋白内の核内外輸送シグナル配列の同定を引き続き進める。そのために、欠失変異体とalanine置換を組み合わせてN蛋白の細胞内局在を観察し、シグナル配列部位を同定する。 特に、IFNシグナル伝達阻害は細胞質で起こることを明らかにしたが、一方でN蛋白が核移行能を有するということは、シグナル伝達阻害以外に核内で特有の活性を示すことを強く示唆する。そのため、N蛋白の核移行能の有無と細胞の機能・性状変化について、様々な角度から検索する。 N蛋白上の配列が同定されたら、当該箇所に変異をもつ変異ウイルスの作出を試みる。ニパウイルスは日本国内で使用できないため、同様にN蛋白が核移行能を持つ近縁の麻疹ウイルスでまず作出を行い、最終的にマウス動物実験モデル系での病態表現系の解析を行う。 興味深い知見が得られた際は、共同研究先のフランス・リヨンのINSERM研究所で組換えニパウイルスの作出と性状解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は当初の計画のうち1つの項目に焦点を絞って研究を進め、その結果研究目的の一つを解明することができた。 一方で、保留としていた他の研究計画については平成30年に改めて推進することとなり、特に遺伝子組換えウイルスの作出と性状解析および動物実験に必要となる消耗品費を中心とした助成金分について、次年度使用額として繰り越すこととした。
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