研究課題
腸管には多数の腸内細菌が存在するが、腸内細菌が生み出す生理活性分子およびその役割については不明な点が多い。一方、小腸粘膜固有層に存在するCX3CR1+貪食細胞は管腔面に樹状突起を伸長することで管腔内の細菌等を取り込むことが報告されている。私たちは、これまでG 蛋白質共役型受容体GPR31が小腸CX3CR1+貪食細胞に選択的に発現し、腸内細菌依存的に産生されるマウス小腸内容物由来の有機分子がGPR31を介して貪食細胞の樹状突起を伸長することを見出している。本年度、このGPR31結合分子の同定を試み、GPR31シグナルが小腸貪食細胞の生理機能に果たす役割について検討を行った。本年度、種々の生化学的手法を用いて、マウス腸管内容物の有機画分からGPR31反応性分子の精製を進め、精製したGPR31反応性画分に含まれる有機分子をLC/MS解析により同定した。この分子はヒトおよびマウスGPR31発現細胞を活性化させた。無菌マウスや抗生剤を用いた解析より、この分子はバンコマイシンなどの抗生剤に感受性を持つ腸内細菌により産生されることが明らかになった。この分子を野生型マウス由来の小腸CX3CR1+貪食細胞にin vitroで添加すると貪食細胞は樹状突起を伸長したが、この樹状突起伸長はGPR31遺伝子欠損マウス由来のCX3CR1+貪食細胞では認められなかった。また、野生型マウスにこの分子を経口投与すると小腸CX3CR1+貪食細胞の樹状突起が顕著に増加したが、GPR31欠損マウスの貪食細胞では変化は認められなかった。以上より、腸内細菌依存的に産生されるこの分子はGPR31の生理的リガンドとして機能し、小腸管腔内に存在する細菌などの取り込みに重要な役割を果たすと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初の申請書では、平成28-29年度にGPR31結合分子を同定し、その産生メカニズムおよび生理的役割を解析することを計画していた。私たちは昨年度までに種々の有機溶媒を用いた有機分子の分離方法や各種クロマトグラフィーを用いた多段階の精製法を確立し、本年度、さらにLC/MS解析を行い、GPR31結合性分子の同定に至った。本年度に計画していたGPR31結合分子の産生メカニズムについては、この分子は腸内細菌依存的に産生されることならびにこの分子の産生菌がバンコマイシンやネオマイシンに感受性を示すことを明らかにした。すなわち、この分子は特定の常在細菌種によって産生されることが示された。また、GPR31結合分子の生理的重要性については、同定した分子を野生型マウスに経口投与すると、小腸CX3CR1+貪食細胞の樹状突起が顕著に増加する一方、この増加はGPR31欠損マウスでは認められなかったことから、今回私たちが同定した分子はGPR31の生理的リガンドとして重要な役割を果たすと考えられた。以上より、本研究は当初の計画に従って、おおむね順調に進展していると考えられる。
本年度、腸管に存在するGPR31の生理学リガンドが明らかになったことから、さらにこのリガンドおよびGPR31シグナルの生理学的重要性について、解析を進める。小腸CX3CR1+貪食細胞は病原性細菌を取り込み、効率的な免疫応答の惹起に重要な役割を果たすことが報告されている。そこで、平成30年度はマウスチフス菌をGPR31欠損マウスに投与し、GPR31シグナルがマウスチフス菌に対する免疫応答およびその抵抗性に果たす役割について検討を進める。さらにこのとき、私たちが同定したGPR31結合分子を経口投与し、マウスチフス菌に対する免疫応答がどのように変化するか解析を行う予定である。また、私たちは本年度、私たちが同定した分子がヒトおよびマウスGPR31の両者に結合することを、GPR31強制発現細胞株を用いて明らかにしたが、ヒトの腸管においてどのような細胞サブセットがGPR31を内在的に発現するかについては不明である。そこで、平成30年度はヒトの臨床サンプルを用いて、ヒトのGPR31発現細胞およびその生理学的役割について検討を加えることを計画している。
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