研究課題/領域番号 |
16K09255
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研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
岡崎 真理 城西大学, 薬学部, 教授 (50272901)
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研究分担者 |
松崎 広和 城西大学, 薬学部, 助手 (80582238)
坂本 武史 城西大学, 薬学部, 教授 (20187040)
玄 美燕 城西大学, 薬学部, 助手 (50711751)
日比野 康英 城西大学, 薬学部, 教授 (10189805)
岩田 直洋 城西大学, 薬学部, 助手 (50552759)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ラット脳虚血モデル / フェルラ酸誘導体 / 脳血流維持作用 / 両側総頚動脈結紮(2VO) / 中大脳動脈閉塞・再灌流(MCAO/Re) / 一酸化窒素(NO) / 硫化水素(H2S) |
研究実績の概要 |
脳梗塞に代表される虚血性脳血管障害の治療は、主として発症後の血栓溶解療法に限られている。当研究グループは、フェルラ酸誘導体FAD012の慢性経口投与が両側総頚動脈結紮脳虚血(2VO)ラットの大脳皮質における血流の低下を顕著に抑制して脳障害を軽減し、ラットの生存率を上昇させることを見出している。 平成28年度は、FAD012の脳障害の予防・軽減のメカニズムを解明することを目的とし、FAD012の虚血時の脳血流維持作用とそのメカニズムの薬理学的手法による検討を行った。当初の計画に沿い、(1) 2VO処置時の脳血流低下に対するFAD012の影響を経時的に測定したところ、FAD012は2VO処置直後から持続的かつ用量依存的に脳血流維持作用を示すことが明らかになった。また、(2) FAD012の脳血流維持メカニズムを解明する目的で、血管拡張因子である一酸化窒素(NO)および硫化水素(H2S)系の関与について検討を行った結果、NO合成酵素阻害薬であるL-NAME、H2S合成酵素のシスタチオニンβ合成酵素(CSE)阻害薬であるdl-propargyl glycineのいずれの投与によってもFAD012の脳血流維持作用は減弱することが明らかになった。これらの結果から、FAD012はNOおよびH2Sを介して脳血管を拡張し、虚血時の脳血流の低下を抑制することが示唆された。FAD012の脳血流維持効果は、FAD012 を慢性的に経口投与した場合にのみ見られ、FAD012を2VO直前に単回静脈内投与した場合には高用量においても確認されず、血圧や心拍数等の循環器系に対する影響も見られなかった。当該研究のこれまでの成果を総合し、FAD012を虚血性脳血管障害の発症前から予防的に経口服用しておくことにより、安全に虚血発作時の脳障害を軽減できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験は当初の計画以上に進展しており、今年度実施予定の局所脳虚血・再灌流(中大脳動脈閉塞・再灌流:MCAO/Re)モデルラットを用いた検討をすでに始めている。MCAO/Reは2VOよりもヒトの脳梗塞に近いモデルとして汎用されているが、FAD012はMCAOによる脳血流低下に対しても有意な抑制効果を示すことが確認できた。再灌流時の過度の脳血管拡張は脳出血の危険性を高めるが、FAD012は再灌流時の脳血流に対しては影響を示さないこともわかった。今後は、MCAO/Reによる脳浮腫や梗塞の形成に対するFAD012の効果について定量的データを取得する予定である。また、FAD012の脳血流維持に関わるメカニズムの検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
FAD012による虚血時脳血管拡張および脳保護作用の分子生物学的メカニズムの解明を目的として、(1) FAD012の虚血時脳血流維持作用の分子生物学的メカニズムの検討を行う。平成28年度の薬理学的検討の結果を踏まえ、脳サンプルを採取し、血管拡張反応のシグナル経路の機能性蛋白質や血管平滑筋の収縮蛋白質について、遺伝子発現解析やWestern Blot解析、免疫染色を行う。また、(2) FAD012の脳保護(細胞死抑制)に関わる分子生物学的メカニズムについても検討を行う。細胞死抑制メカニズムについては、主にアポトーシスやネクロトーシスのシグナルに関わる蛋白質や脳保護因子、その上流の調節蛋白質の発現ついて解析を行う。(1)と同様、脳組織サンプルを採取し、アポトーシス関連蛋白質やネクロトーシス関連蛋白質、TNF-αやIL類、HMGBl等の炎症関連因子の遺伝子発現量および蛋白質発現量を定量PCR法およびWestern Blot法、免疫染色によって測定する。 時間的に可能であれば得られた結果をもとに、FAD012のターゲット蛋白質の発現やリン酸化等を直接の指標として、誘導体を合成・スクリーニングし、FAD012よりも強い新規化合物の探索を行う。
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