研究課題/領域番号 |
16K09472
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
菊谷 昌浩 帝京大学, 医学部, 教授 (80361111)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | RHI / FMD / 動脈硬化 |
研究実績の概要 |
血管内皮機能の臨床的な意義(危険因子、臓器障害、予後との関連)についてのデータは依然として僅かである。更にエビデンスを積み上げる必要がある。 BOSHIコホートは平成22年11月から開始された出生コホートで、平成27年より追跡のフェイズに移行しているコホート研究である。本研究課題はBOSHIコホートの追跡調査に参画し、エンドパッドによる血管内皮機能を測定した。BOSHIコホートではユネクスFMDによる血管内皮機能も導入されているため、両方の血管内皮機能を併せて評価するため、同時測定のプロトコルを採用した。また、同時測定であるため、15分間の上腕駆血は1回で済むため対象者への負担も最小限である。 同コホートにおいて平成28年度から開始されたエンドパッドおよびユネクスFMDの同時測定であるが、平成30年度までの累積の対象者数は女性153名に増加した(同 前年度82名)。基礎特性は年齢41.7±4.6歳(range 30~53歳)、BMI 23.0±5.8 Kg、収縮期血圧104.8±12.1mmHg、拡張期血圧67.3±10.0mmHg、脈拍60.2±6.9beat/minであった。エンドパッドによる指先の血管内皮機能であるReactive hyperemia index (RHI)は2.48±0.57(range 1.18~4.82)、自然対数変換したRHI(以下LnRHI)は0.88±0.24(range 0.16~1.57)であった。一方、同時測定したユネクスFMDによる橈骨動脈によるFlow-mediated dilatation (FMD)は7.58±1.71%(range 0.80%~15.20%)であった。LnRHIとFMDの相関係数で0.12(P=0.16)でありほとんど相関がなかった。さらにNを増加させて次年度も解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の後半にエンドパッドおよびユネクスFMDの同時測定のプロトコルの確認が完了し、また、協力病院内であるスズキ記念病院の検査体制が確立した。また、今年度は例数を重ね検査者の技量も向上し熟練した検査ができるようになった。今年度分の検査数はほぼ予定通りであるが、初年度の遅れ分は、まだ取り戻せていない。そのため最終的な目標測定人数には到達できていない。引き続き継続して対象者を積み上げ、十分なNで分析を行っていく。 初年度に11名の女性でRHIとFMDの相関が0.52(P=0.098)と中等度の相関が認められたが、今年度までの累積の女性153名では相関係数は0.11(P=0.31)であり、ほとんど相関を認めなかった。LnRHIを従属変数、FMD、年齢、収縮期血圧、脈拍、BMIを独立変数とした重回帰分析を行ったところ、BMIのみ正の関連(標準化回帰係数β=0.23, P=0. 004)を認め、FMDおよび他の独立変数は有意な関連はなかった。LnRHIとFMDを入れ替えて、FMDを従属変数として同様の分析を行ったところ、脈拍のみが正の関連(β=0.20, P=0.017)を示し、LnRHIを含む他の独立変数は関連を認めなかった。 以上の結果より血管内皮機能の指標であるRHIおよびFMDは、異なる測定であり、同一なものでなないことが改めて確認された。なお、フラミンガム研究などの既報とことなり、血管内皮機能の指標(RHIおよびFMD)と、年齢および収縮期血圧との関連を認めなかった理由については、第一に本対象者が比較的均一で、rangeが小さいためであることが考えられる。実際、年齢の第1四分位-第3四分位は39-44歳、収縮期血圧では96-112mmHgと狭い範囲内に分布していた。引き続き対象者数を増加させ次年度も解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目的として、血管内皮機能の採血項目、血圧および生活習慣との横断的検討を行う予定であった。しかし、データセットの統合およびデータクリーニングが終わっていないため実質的な分析はまだ出来ていない。急ぎデータセットを完成させて最終年度である今年度に同解析を行う。つまり、BOSHIコホートにおいて、エンドパッドによる指先の血管内皮機能、およびユネクスFMDによる橈骨動脈での血管内皮機能の同時測定の測定体制は確立しているものの、初年度の遅れ、および、それに伴うデータセットの完成の遅れがあった。そのため研究期間を延長し、積み残しの課題を行っていく。 つまり、1)血管内皮機能の指標であるRHIと、動脈硬化と関連する因子である採血項目(腎機能、尿酸、糖代謝、脂質、電解質、血漿レニン活性, 血漿アルドステロン、BNP,高感度CRPおよび尿中アルブミン等)、血圧および生活習慣との横断的検討である。 更に、2)血管内皮機能と動脈硬化指標との関連を横断的に確認後に、血管内皮機能と、Pulse wave velocity(PWV)、Augmentation Indexとの関連を横断的に検証する。さらに、年齢、性別、あるいは危険因子の重積の有無でサブグループ分析を行い、血管の障害の各段階での血管内皮機能と他の動脈硬化指標との関連を検討する。 また、3)血管内皮機能と心血管アウトカムとの縦断的検討として、慢性腎臓病発症をアウトカムとして、血管内皮機能と既存の動脈硬化指標の予後予測能を比較する。各種交絡因子を補正したCox比例ハザードモデルで予後分析を行い、モデルに既存の動脈硬化指標(PWV、Augmentation Index)を適宜投入することで、血管内皮機能がそれらの指標を上回る予測能を追加できるのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度からエンドパッドおよびユネクスFMDの同時測定が確立し、今年度は定常的な症例数の積み上げが行われている。しかしながら、初年度の遅れのため、測定目標人数に追い付いていない。そのため、エンドパッドの測定に用いる消耗品の消費が減ったのが主要な理由である。 しかし、現時点では、それらの障害は解決しており、今後の進行に支障はきたさない。引き続き継続して対象者を積み上げ、十分なNで本分析を行っていく。エンドパッドの測定に用いる消耗品および、調査票のデータ入力費用、データ整理、検査の人件費としても次年度使用額を充当していく予定である。
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