研究課題/領域番号 |
16K09860
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
安部 明弘 藤田保健衛生大学, 医学部, 客員准教授 (00432261)
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研究分担者 |
恵美 宣彦 藤田保健衛生大学, 医学部, 教授 (30185144)
山本 幸也 藤田保健衛生大学, 医学部, 准教授 (90410703)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 白血病 / RNA-seq / 融合遺伝子 / 複雑核型 |
研究実績の概要 |
1.造血器腫瘍におけるRNA-seq解析の症例追加。新たに追加解析した症例として、複雑核型を有した急性骨髄性白血病3検体、ユニークな形質を有した急性骨髄性白血病3検体、初診時と再発時の保存検体がある1例(2検体)、新たに樹立した細胞株2検体、リンパ系腫瘍2検体の計12検体についてRNA―seq解析を行った。得られたシークエンスデータにつきコンピューター解析を進めている。 2.データの解析手法の改善。ショートリードのデータ解析用のソフトとして、市販のCLC genome workbenchとTopHat-Fusionを主に解析を進めてきたが、さらに昨年度からオープンソースの融合遺伝子解析ソフトdeFuseも使い、複数の解析ソフトで多面的な解析を進めている。 3.新規融合遺伝子の機能解析。RUNX1-GRIK2(RG)融合遺伝子を導入したマウスIL3依存性白血病細胞株32Dを用いて機能解析を進めた。12番染色体に異常の見られた2症例から見出したETV6-IAPPおよびETV6-ABCC9融合遺伝子についての遺伝子異常の構造解析を行った。また、GFPとの融合遺伝子を作成しタンパクとしての発現解析を行った。 4.三重転座、t(8;12;21)(q22:p12;q22)を示したRUNX1-RUNX1T1陽性AMLにおけるTM7SF3-VPS13BおよびVPS13B-RUNX1融合遺伝子の解析を論文発表した。VPS13Bは先天異常であるコーエン病の責任遺伝子として知られている。コーエン病では好中球減少と骨髄における顆粒球の左方移動が生じるが、この症例ではRUNX1-RUNX1T1陽性AMLに比べ分化傾向が減弱しており、VPS13Bの破壊が白血病の表現型に影響を与えている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.複雑核型を有する白血病症例を中心にRNA-seq解析を進め、当該年度は興味深い形質を示した白血病症例などを加えた12検体でRNA-seq解析を行った。多彩な融合遺伝子を同定しており、引き続き融合遺伝子を始めとした遺伝子異常のコンピューター解析を進めている。 2.これまでのコンピューター解析に加え、オープンソースの解析ソフトdeFuseを用いて過去に行ったRNA-seqのデータ解析を進め、より精度の高い融合遺伝子解析を行うことができた。多数例のデータを、エクセルのマクロ機能を使って解析するためにプログラムを構築し解析を進めた。 3.RUNX1-GRIK2融合遺伝子を導入した32D細胞を用いて機能解析を進めた。32D細胞ではIL3存在下にはG-CSFレセプターを発現しないが、IL3非存在下に培養するとG-CSFレセプターの発現が増加する。一方、RUNX1-GRIK2を導入した32D細胞では、IL3存在下にもG-CSFレセプターが発現し、IL3非存在下でG-CSF刺激による増殖が増強することを見いだした。 4.12番染色体に異常を有する2症例から見出したETV6-IAPPおよびETV6-ABCC9融合遺伝子は、それぞれETV6のexon 1とIAPの5’UTR、ETV6のexon 4とABCC9の5’UTRが融合した形を取る。前者では、12番染色体上に欠失、後者では微小な逆位が生じ融合遺伝子が形成されることがわかった。いずれも融合タンパクとしては発現しないが、遺伝子の全長を含むため異所性遺伝子発現が考えられる。GFPの融合タンパクを形成するコンストラクトを作製し発現を調べたところABCC9の発現は認められたが、IAPPは認められなかった。このことから、ETV6 exon 1との融合であれば、その3’側に融合した遺伝子は発現するが、exon 4との融合では発現は困難と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
1.本年度も、複雑核型あるいはユニークな染色体転座を有する白血病症例等について12例程度の症例で、RNA-seq解析を追加する予定である。予想以上に多数の融合遺伝子が検出されているが、複数のコンピューターソフトを用いた解析結果を照合して検討するとともに、正常骨髄や正常末梢血幹細胞でのRNA-seq解析データからアーチファクトあるいは正常範囲のスプライシングによる融合などのデータを蓄積し、病的意義の低い遺伝子を効率良く除外するシステムの構築を進める。実在する可能性の高い融合遺伝子についてはPCR法などでの確認を行う。多症例での解析データに横断的に検討を加え、再現性のある異常についてエクセルのマクロ機能を使って統計処理するプログラム作成し統計的な解析をすすめる。また、コンピューター解析において、近隣に位置する二つの遺伝子間にスプライシングが生じた融合遺伝子が多数検出されてくるが、こうした融合遺伝子は病的検体のみではなく、正常検体にも検出されてくる。それらが病的意義のあるものなのかどうか、量的な比較も行い検討を加えたい。 2.初診時と再発時における遺伝子解析を行った症例から細胞株を樹立し、これら3検体についてRNA-seqを行った。初診時から複数の融合遺伝子が認められたが、再発、細胞株になるにつれ融合遺伝子の数も増えた。こうした異常が生じた原因について解析を進めたい。 3.新規融合遺伝子の機能解析については、ETV6-ABCC9融合遺伝子から衣装性に発現するABCC9の機能に検討を加える。その他に、TCF4-MAML3、ARMC7-BLMH、CMC4-NCOA1など多数の新規融合遺伝子を同定しており、興味深い融合遺伝子についての機能解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由 RNA-seq用の遺伝子ライブラリーを作成するキットおよび試料の量と質を検定するリアルタイムPCR用キットは前年度からの残薬を使用するなどしたため、使用額に差が生じた。 使用計画 本年度もRNA-seq解析を予定しているが、次世代シークエンス用のクラスター作成、フローセル等のキットは高額であるため本年度の研究費と合わせて購入に充てる予定である。
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