研究課題
本研究では、統合失調症などの精神神経疾患病態脳にて、ニューロン・ミクログリア相関の破綻が、ミクログリアの炎症性の活性化を生起する神経病理を探究することにより、ミクログリアを治療標的とする創薬の技術的基盤を構築することをねらいとし、まず、脳内ミクログリア動態をMRIにより画像化するための分子イメージング技術の創出を行う。28年度では、poly I:Cによる統合失調症病態モデルラットにて、プレパルス抑制(PPI)障害などの精神症状を呈した時期の脳組織より切片を作製し、その培養系でニューロン軸索終末のフラクラルカイン(FKN)からの可溶性FKNの産生と、それによるCX3CR1を介したミクログリアの活性化を、in vitroでIn-cell NMRにより画像化するためのNMR機能プローブを創製した。当該NMR系では、統合失調症病態初段階におけるミクログリアの活性化に掛かる可溶性FKNの産生をリアルタイムで描出することに成功した。次に、創製済のNMR機能プローブに血液脳関門透過性を持たせるため、狂犬病ウィルス糖タンパク質を結合し、PPI障害やamphetamine投与下でのhyperlocomotionなどの精神症状を呈するpoly I:Cによる統合失調症病態モデルラットの尾静脈から静注した。その結果、発症初期の脳内ミクログリア活性化に先立つ可溶性FKNの産生を、MRIを用いてリアルタイムに画像化することができた。さらに28年度では、可溶性FKNの産生に与るADAM10特異的な阻害剤の創製にも着手し、候補化合物を複数見出すこともできた。これらの成果は、ミクログリア活性化を阻害し統合失調症の発症を予防するためのミクログリア創薬や、脳内ミクログリアの活性化に掛かる分子異常の描出による統合失調症の超早期診断などに応用することができると見込んでいる。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画していたミクログリアの炎症性活性化に掛かるニューロン軸索終末での可溶性フラクタルカイン(FKN)の産生を、In-cell NMRにより解析するためのNMR機能プローブに加え、それを修飾することにより血液脳関門透過性を持つMRI機能プローブの創製を行うことができた。さらに、28年度には見込んでいなかった可溶性FKNの産生に与る病態プロテアーゼADAM10特異的な阻害剤のスクリーニングも行い、複数の薬剤候補化合物を見出すことができた。これらより、研究の進展は当初の見込み以上であると判断した。
これまでの研究によりニューロン軸索終末におけるADAM10によるフラクタルカイン(FKN)からの可溶性FKNの産生が、統合失調症発症初段階におけるミクログリアの炎症性活性化を誘引することが確認されたので、今後は、MRIにより脳内ミクログリア動態を描出するためのMRI機能プローブについて、そのMRIシグナルの生成効率と血液脳関門透過性の向上のための分子構造の至適化を行いうとともに、そのヒト患者への適用の可能性を探究する。また、統合失調症などの精神神経疾患病態脳にて脳内炎症反応の惹起に掛かるADAM10の賦活の分子病理を解明するため、病態モデル動物脳組織、特にシナプス傍組織における分子異常を、レーザーマイクロダイセクション法などの生化学的方法により検索する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件)
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