研究課題
本研究では、はじめに超免疫不全マウス(NOG)にヒト造血幹細胞(HSC)とヒト間葉系幹細胞(MSC)を共移植することによりヒトの造血環境を再現したヒト化マウス(huNOG)において、MSCによりもたらされる複数の組織損傷治癒効果を、特に高線量の放射線が骨髄や腸管、皮膚といった組織の幹細胞に与える障害を中心に、どの程度改善できるのかを評価するためのマウスモデルを構築することを目指した。平成28年度には、従来の方法に沿って単一ドナー由来ヒト骨髄単核細胞(BM-MNC)から単離したHSC(CD34陽性)とMSC(CD271陽性)をNOGマウスの下肢大腿骨内に注入し、3ヶ月間末梢血中のヒト造血細胞をFACS解析により追跡した。通常ヒト造血細胞の生着が認められる個体では3ヶ月後にはCD19陽性細胞の出現等の兆候が見られることが多いが、末梢血中のヒト造血細胞のキメリズムは期待するようには上がっていなかった。そこで各組織のサンプリングを行い、FACSと免疫組織染色法により調査を行ったところ、脾臓、及び骨髄内にはヒト細胞が生存していることを確認した。このことから、より早期にヒト造血細胞の生着を確認する方法を検討することが課題となった。一方で、より治癒効果の高い細胞特性を有するMSCを選別・作出する課題の一環として、国立研究開発法人理化学研究所 バイオリソースセンターのセルバンクよりご提供頂いたヒトiPS細胞7株から、既存の方法を用いて誘導間葉系幹細胞(iMSC)への分化誘導を試みた。誘導後、一般的なMSC培養条件において良好に継代することができた細胞株を、表面抗体を指標としたFACS解析により確認したところ7株中6株からiMSCとして有望な株を得ることができた。現在、主にin vitroにおいて放射線障害に対する防護効果の有効性を組織由来のMSCとの比較から検証している。
3: やや遅れている
計画では、本年度中にhuNOGマウスを用いた放射線障害評価モデルを確立し、MSCのHSCに対する放射線障害防護・治癒効果を検証する予定であった。しかし、照射実験を行うだけのhuNOGが揃わず課題を残している。一方で、次年度計画を前倒しして、ヒトiPS細胞からiMSCを分化誘導させることに成功し、iMSCの放射線障害に対する防護機序をin vitroで検証するための準備が整った。
市販の単一ドナーMNCから得られるHSC、及びMSC(培養により3継代まで増幅)では、現行の実験スケールを大きくすることが難しいため、複数ドナー由来のHSC、及びMSCを使用することも含め、huNOGの安定生産を目指した改善を行う。その上で平成29年度には、ヒトの造血環境を持つhuNOGマウスへのγ 線照射実験を行い、骨髄内のヒトHSCへの影響を評価する。造血能に関しては、末梢血中のヒト白血球数を測定し、生存率とヒト血液細胞のキメリズムから造血障害の回復程度を評価する。同時に、ヒトHSCへのダメージをin vitroにおいて解析するため、ソーティングによりHSCを分取し、コロニーアッセイによる分化能の評価を行う。併せて、骨髄、肺、胸腺、リンパ節、脾臓、皮膚、小腸上皮などの組織を採取し、病理組織学的に放射線障害の程度を評価する。必要に応じてはBrdUやHoechst、γH2AXなどの細胞染色を行い、アポトーシス抑制やDNA損傷の修復など細胞レベルでの放射線応答性に対する影響についても検証する。また一方で、異なる組織由来のヒトMSC、及びiPS細胞から分化誘導されたiMSCを用いて、放射線障害に対してより機能的なMSCの選別と細胞の性状解析を試みる。可能であれば、本研究で構築した放射線障害評価モデルを用いて組織障害に対する治癒効果を比較する。そこで組織障害特異的に治癒効果の高い生物活性が認められたMSCについては、有効性の基軸となる分子を解明するため、DNA マイクロアレイやリアルタイムPCRによる遺伝子発現解析、培養上性清の抗体アレイ解析などを行う。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Oncotarget
巻: 7(32) ページ: 51027 - 51043
10.18632/oncotarget.10210