本研究は、超免疫不全マウス(NOG)にヒト造血幹細胞(HSC)とヒト間葉系幹細胞(MSC)を共移植することによりヒトの造血環境を再現したヒト化マウス(huNOG)を作製し、MSCによりもたらされる組織幹細胞への放射線障害治癒効果を評価するためのマウスモデルを構築することを目的とする。 平成30年度、かねてより生着率の悪さが課題となっているヒト骨髄単核細胞(BM-MNC)由来のHSC(CD34陽性)、及びMSC(CD271陽性)のNOGマウス骨髄内への移植について再度検討するため、移植後2週間目にマウスのサンプリング調査を行った。FACS解析の結果、骨髄内にヒト造血細胞が生存している事が確認出来たが、末梢血中、脾臓、肝臓では明確なヒト造血細胞集団を認めなかった。またHSC単独で移植を行った個体よりもHSCとMSCの共移植を行った個体の方が、ヒト造血細胞数が顕著に低かったことから、ヒト造血微小環境を構築すると期待されたMSCの共移植が、むしろHSCの生着に負に作用している可能性を示唆するものであった。 他方で、より治癒効果の高い細胞特性を有するMSCを選別・作出する課題の一環として進めていたヒトiPS細胞からの誘導間葉系幹細胞(iMSC)の作製については、安定した形質を維持できている細胞株を用いてin vitroにおける放射線障害防護効果を検証した。その中で特に、HSCへの放射線照射を行った後、各MSCの培養上清から精製したエキソソームをコロニーアッセイ用の培養液に添加することで造血幹細胞への影響を評価する実験では、iMSC由来のエキソソームが、過去に照射細胞の生存率を向上する事が報告されている組織由来MSCや不死化MSC株由来のエキソソームと同様に造血幹細胞の生存率を向上させ得ることを示した。 現在、他の実験結果と合わせてiMSCの放射線障害防護効果について取りまとめを行っている。
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