研究課題
肝細胞癌に対する根治療法としての肝移植は、癌の完全摘出と病的障害肝の入れ換えという両側面を有する。肝移植症例登録報告によると本邦では臓器移植法改正後、年間の脳死肝移植症例数は50例前後まで増加したものの、最近は横這い傾向で、欧米と比較して生体肝移植症例に頼らざるを得ないのが現状である。従って、本邦における特殊な背景を考慮し、生体肝移植の適応を拡大させる方法と成績をさらに改善する方法も検討されるべきである。生体肝移植の適応を拡大させる方法としてABO不適合移植がある。特にブレイクスルーとなったのは、抗体産生細胞(B細胞)の表面マーカーであるCD20を標的とするリツキシマブの誕生である。ただし、本邦におけるリツキシマブの投与量については各施設により差があり、どの量が必要であると同時に安全であるかについての多施設共同研究はほとんど行われていないのが現状である。我々の教室では本邦の生体肝移植におけるリツキシマブの至適投与方法を確認する多施設共同研究に参画した。免疫抑制剤は、拒絶反応を抑制するために必要であると同時に、腎障害を含む様々な副作用を惹起するため、維持期には必要最小量まで減量する必要がある。通常は、免疫抑制剤の血中濃度のトラフ値を用いているものの、この量が適切かどうかは個々の症例により変化する。免疫モニタリングにより、現時点での免疫抑制レベルが適切か否かを判断することが可能となり、腎障害を最小化したレジメンの効果と安全性を証明することが可能となる方法である。教室では、CD13が肝細胞癌の癌幹細胞の表面マーカーであると同時に、また治療標的であることも証明した。既存の抗癌剤は、非癌幹細胞を標的としているため、抗癌剤治療で例え一旦腫瘍が縮小しても、癌幹細胞が残存することで再発を来すとする癌幹細胞仮説が存在する。従って癌幹細胞を標的とした新規治療法の確立が急務となっている。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、多施設共同研究の形で、本邦におけるABO不適合生体肝移植の導入療法で用いられているリツキシマブの至適投与量を検討した。結果として、500mg/body以上の濃度でも副作用は許容範囲内に留まる事から、十分量の投与が推奨される可能性が示唆する。今後は、さらに多くの症例集積が必要となることから、可能であれば前向きランダム化比較試験の遂行が望まれるが、移植症例数には限りがあり、海外のデータも参考とする。また、肝移植後免疫抑制剤の副作用により腎障害を来すリスクがあることから、拒絶反応を惹起せず、さらに長期投与による腎障害を回避する適切なレベルの免疫抑制剤の投与量の調節が必要となる。教室では拒絶反応の早期診断を可能とするバイオマーカーの探索も進めている。本年度は、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文教授との共同研究において、タンパクマイクロアレイの手法を用いることで新規マーカーを同定した (Transplant Direct 2016)。さらに、教室が報告した肝細胞癌幹細胞マーカーのCD13を標的とした新規治療法に対する研究も継続している。癌幹細胞に発現しているCD13を阻害するウベニメクスが肝細胞癌に対する既存の抗癌剤と相乗効果を示す事を報告した。これらの新規治療法を併用することで、肝細胞癌に対する治療成績を改善することは、将来的に本邦における慢性的なドナー不足を改善する方法となる。既存の肝細胞癌に対する抗癌剤にウベニメクス等の新規薬剤を上乗せする。移植を必要とする幹細胞癌症例数を減少させることで他の疾患の患者さんに移植の機会を与える可能性もある。免疫抑制剤のレベルの最適化と肝癌幹細胞を標的とした新規治療の樹立は日常診療まで応用可能な方法論で、これらの一連の研究業績を英文論文化しており、また学会発表でも報告していることから、現在までの進捗区分を概ね順調と判断した
まず、肝切除および肝移植における術直前、手術中(移植においては肝摘出中、無肝期、肝摘出時)、術後に、骨髄血および末梢血を採取する。これを用いてトランスクリプトーム解析を行い、それぞれの血中に含まれる癌細胞特異的表面分子マーカーを同定し、肝細胞癌再発予測診断の可能性について検索し、その実態を把握する。また、新規に診断マーカーが同定された場合は、免疫染色を用いて予後との相関を解析する。新規バイオマーカーは免疫抑制剤の投与レベルの調整にも有用であり,腎障害の軽減を図ることに繋がると考えている。末梢血中に存在する癌細胞の検出は、肝細胞癌の早期診断を可能とするとともに高頻度で再発が予測される部分を明らかにする事でミラノ基準を適切に拡大あるいは、新規のマーカーを導入することでドナー不足の解決をも意図する。治療標的となりうる因子が同定された場合は、遺伝子導入実験を行い,増殖能、浸潤転移能など機能的な解析を行う。これらの因子を標的とする薬剤が存在する場合は、その薬剤を用いて肝癌における有効性を検討する。既存の抗癌剤と新規治療薬の相乗効果をStimulation Indexにて相乗効果の判定を行う。次に、各種免疫抑制剤(タクロリムス、シクロスポリンA、ラパマイシン、エベロリムス)至適組み合わせとステロイド使用に関する検索を肝癌特異的分子という点より検索する。また、肝細胞癌の治療が必要と判断されればTACE治療の上乗せを検討する。この際既存の治療法での治療効果が限定的と判断された場合は、c-Met阻害剤等の肝癌幹細胞を標的としうる新規抗癌剤の治療効果も検討する。また、炎症が再発に関連することが明らかとなった場合は、IL-17、IL-33等の炎症マーカーを用いて予後解析を施行する。
実験試薬の差額が生じた為。
次年度の癌特異性に基づく肝細胞癌根治療法としての移植医療適応拡大に関する研究費に計上見込み。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件)
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