研究課題
肝細胞癌に対する肝移植を考える上で移植後再発は重要な問題である。移植後再発をコントロールするために重要なことは、レシピエントの免疫状態のコントロールと肝細胞癌の再発メカニズムの解明である。前年度は新たな免疫抑制剤であるリツキシマブの至適濃度を決定し、ABO不適合移植においても適切な免疫コントロールが可能であるか検討した。今年度はリツキシマブを用いて実際の肝細胞癌における肝移植において、術後合併症の発生頻度や、再発頻度などを調査する。さらに肝細胞がんの再発メカニズムの解明および治療について検討を行った。教室ではCD13が肝細胞癌における癌幹細胞マーカーの一つであることを報告してきた(J Clin Invest 2010)。癌幹細胞をtargetにした治療はがん再発の予防につながることが予想される。Ubenimexは競合的、可逆的プロテアーゼ阻害剤であり、CD13の機能を阻害することがわかっている。まず2つの肝癌細胞株(Huh7, PLC)を抗がん剤単独と抗がん剤+Ubenimexで治療し、CD13陽性細胞の推移を調べた。抗がん剤のみを投与した群では、癌幹細胞が治療抵抗性のためより多く残存し、治療後CD13陽性細胞の割合が増えたのに対し、Ubenimexを追加した群ではCD13陽性細胞の増加は有意に抑制されていた。さらにUbenimex投与群では、G0/G0期の細胞割合が有意に減少しており、Ubenimexが癌幹細胞をtargetにした治療薬となりうることを示した。またUbenimexによる治療はCD13を直接targetにしているため、免疫低下状態でも効果を発揮する可能性が十分に考えられ、移植後の免疫抑制状態においても有用である可能性が高い。移植後の肝癌再発予防の方法が確立されれば、より進行した肝癌に対しても肝移植治療が適応される可能性が広がり、非常に意義深いと思われる。
3: やや遅れている
今年度は肝細胞癌の再発メカニズムの解明と治療法の開発という目的のもと、肝細胞がんの癌幹細胞であるCD13陽性細胞をtargetとした治療法の開発を検討した。CD13 inhibitorであるUbenimexを投与することで、癌幹細胞の遺残を有意に抑制することが可能であることを解明し、肝細胞がんの再発予防に寄与する可能性を示した。ここまでの結果はすでに英語論文として報告しており(Yamashita et al. Int J Oncol)、さらに今後in vivo実験においてUbenimexの作用について評価していく予定である。さらに、肝内転移のメカニズム解明のため、現在すでに高率に肝内転移を起こす細胞株の樹立に成功しており、肝内再発メカニズムの解明については、予定通り進んでいる。一方で、移植適応拡大のために、ABO不適合移植を円滑に進めるため、前年度はリツキシマブの至適濃度決定を行った。今年度は実際にリツキシマブを用いた症例において、移植後再発の頻度などを調査する予定であったが、当教室の臨床体制の変更から今年度の肝移植症例数が減少した。そのため肝移植における免疫応答を検討するための肝移植術前後の血液サンプルの解析などが、十分行うことができなかった。そのため進捗状況としてはやや遅れているとした。
Ubenimexがin vitroにおいて肝細胞癌に対する癌幹細胞をtargetとした治療が可能であることは、これまでの結果で示した。そこで次は、肝癌モデルマウスを用いてUbenimexの上乗せ効果で肝内転移を抑制することができるかを検討する。さらにUbenimex投与下における免疫状態をprofilingすることにより、肝移植後の免疫抑制状態におけるUbenimexの治療効果に対する評価を行う。また肝細胞癌の肝内転移のメカニズムを分子生物学的に解明することも移植医療の適応拡大に向けて重要である。当教室では、肝細胞がんの特徴である肝内転移のメカニズムを解明するために、細胞株を用いて肝内高転移モデルを作成した。これはマウスの脾臓に肝癌細胞株を注入し、肝臓に生着した腫瘍を再度培養し、それを脾臓に再注入し、肝転移巣から細胞を抽出するということを繰り返すことで、肝内転移能を強く持つ肝癌細胞株を作り出すことが出来るというものである。教室ではすでに高転移株を樹立しており、親株に比べ2倍以上の確率で肝内転移を認めることが確認できている。この細胞を用いて遺伝子解析やmicroarray、microRNA arrayを行うことにより、肝内転移に関連するmoleculeを同定する。そのmoleculeについて、まず通常の肝細胞癌肝切除症例において腫瘍での発現と切除後の肝内再発の頻度についてretrospectiveに解析し、次に肝移植を施行した症例に対しても同様に、発現によって移植後再発に差があるか検討する。またミラノ基準内の肝細胞癌に対して肝移植を予定している患者に対して、術前腫瘍生検を施行し、生検サンプルにて評価可能か検討する。術前に評価可能であれば、肝内再発をきたしにくい患者群を同定できる可能性があり、こういった患者に対して現在の適応を拡大して肝移植を行う可能性が拡がると期待している。
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すべて 2017
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件)
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