研究課題
肝移植医療におけるドナー不足に対する方策として心停止後ドナー(DCD)からの肝移植が注目されているが、脳死肝移植に比べて移植後早期のグラフト機能不全と、胆管狭窄などの胆管合併症の危険性が高いことが指摘されている。これらDCD からのグラフト肝に生じる合併症の原因として、通常の肝移植における冷保存再灌流障害に加えて心停止前後の肝温虚血が上乗せされるため、肝微小循環障害がより強く出ることが考えられる。本邦での現状において、DCD 肝移植を臨床導入するための課題として1)この肝微小循環障害を軽減しグラフト肝機能を保護する方法、2)保存後の移植直前の時点でのグラフト肝viability の正確な評価法、の2 つを確立することが必須である。本研究はDCD 肝移植の臨床に踏み切るため、ブタ肝移植実験によるトランスレーショナル研究としてこれらの課題について検討することを目的として開始した。これまでの成果としては、1)愛媛大学総合科学研究支援センターの中の動物実験センターでブタ肝移植実験のセットアップを完了した。当センターでの、ブタ実験動物の搬入、飼育、全身麻酔下の開腹手術などブタ肝移植実験の準備を完了し、さらに数頭のブタ開腹手術を行い、DCD肝移植モデルの確立に向けて検討している。2)ブタ肝移植実験と平行して、グラフト肝機能保護のため微小循環障害を軽減するpharmacological protection として有効な薬剤併用による「recovery system」開発のために、ラットDCD肝移植実験も開始した。これまでリコモヂュリンなどの数種類の薬剤の効果を検討した。
3: やや遅れている
昨年度はブタ肝移植実験を行うための人員を集めることにやや困難があり、実験の実施予定がやや遅れている。そのため対策として、ラットDCD肝移植実験によるpharmacological protectionの開発を平行して行っている。
前臨床研究である本研究では、pharmacological protection のための薬剤は現在臨床使用されているものとし、有力な候補として好中球エラスターゼ拮抗剤(シベレスタット)、肺動脈性肺高血圧治療薬であるエンドセリン受容体拮抗剤(ボセンタン)や合成プロスタサイクリン(エポプロステノール)、血小板活性化因子受容体拮抗剤(ルパタジン)、抗TNF-α抗体(インフリキシマブ)などがあり、これらの単剤または併用での効果を検討する。薬剤はwash-out 液や冷却保存液に加え、さらには移植手術開始時からレシピエントに投与することにより、グラフト肝機能保護効果を検討する。保護効果のある薬剤を同定した後は、ブタ肝移植実験において効果を確認する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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