研究課題/領域番号 |
16K10706
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
塩見 和 北里大学, 医学部, 講師 (50398682)
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研究分担者 |
江島 耕二 北里大学, 医学部, 准教授 (30327324)
玉内 秀一 愛媛県立医療技術大学, 保健科学部, 教授 (60188414)
佐藤 之俊 北里大学, 医学部, 教授 (90321637)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 胸膜中皮腫 / アスベスト / 免疫療法 / 胸腔内治療 |
研究実績の概要 |
中皮腫を極めて難治性の疾患から治療によって予後の改善が期待できる疾患にするために、①中皮腫に対する有効な胸腔内局所療法の開発、及び②難治性の病理組織型である二相型、肉腫型に対するバイオマーカーの探索を目的として、基礎実験を進めている。 ①胸腔内局所療法に関しては、これまでに作製したマウスにおける中皮腫胸腔内及び皮下モデル(BALB/c及びC57BL/6Jのマウスにおいて、マウス中皮腫細胞株(AB12及びAE17)を移植させたもの)を用い、最も治療効果の高いレジメン(抗癌剤、抗体療法、免疫細胞療法の単独または組み合わせ)の開発と、同時に、薬剤の胸腔内投与方法の開発という2つの側面からアプローチしている。レジメンの開発に関しては、抗PD-1抗体及び抗CTLA4抗体の併用療法(±抗癌剤Gemcitabine)で根治率を2/3まで上げた。薬物の胸腔内投与方法の開発に関しては、マウス胸腔内にチューブを留置し抗癌剤を数回連続投与する方法や温熱化学療法を試みるも抗癌剤(小分子化合物)の胸腔内での吸収が早いため、十分な効果は得られなかった。従って、現在、徐放効果並びに細胞の胸腔内での安定性を高めるために、アスパラギン酸塩化カルシウムゲル、ヒアルロン酸ゲル、ゼラチン、PLGAマイクロスフェアなど用いて検討中である。 ②難治性の病理組織型である二相型、肉腫型に対するバイオマーカーの探索実験では、これまでに行ってきたヒト中皮腫細胞株を免疫原とするランダム免疫法、及び二次元電気泳動・質量分析法を用いた実験で得られた候補タンパク質に加え、新たな候補タンパク質の探索を目的に、ヒト中皮腫組織のパラフィン切片を用いたショットガンプロテオミックス法(プロテオーム解析)を行った。現在、データを整理中である。 ③臨床検体においては、北里大学病院、横須賀共済病院より症例の集積を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①胸腔内局所療法の実験に関しては、マウス中皮腫モデル(BALB/cマウスの胸腔内及び皮下に、マウス中皮腫細胞株(AB12)を移植したもの)に抗PD-1抗体及び抗CTLA4抗体の併用療法(±抗癌剤Gemcitabine)を行うことで根治率を2/3まで上げた系を作製した。また、この系で「根治」したマウスに、中皮腫細胞株AB12のみならず、他のBALB/c由来の腫瘍細胞株(腎細胞癌Renca、血管肉腫ISOS-1)を移植すると、すべて拒絶される現象が認められたため、この系を用いて抗PD-1抗体及び抗CTLA4抗体投与後の免疫獲得及び免疫記憶のメカニズムを解明する実験を開始した。 ②難治性の組織型である二相型、肉腫型に対するバイオマーカーの探索実験に関しては、ショットガンプロテオミックス法を用いた網羅的なプロテオーム解析を行った。現在、データを解析中であるが、上皮型中皮腫、二相型及び肉腫型中皮腫、中皮細胞(セルブロック)を比較し、発現に差のあるタンパク質で、かつ増減ともに10倍以上差のあるタンパク質を同定し、さらに、この中から鍵となるタンパク質の絞り込みを行う予定である。 ③臨床検体においては、北里大学病院、横須賀共済病院より症例の集積を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
①胸腔内局所療法の実験に関しては、抗PD-1抗体及び抗CTLA4抗体の併用療法にどの抗癌剤を、どのタイミングで加えると、最もSynergic effectが高いか(薬剤投与スケジュール、レジメン)を探る。また、AB12を用いた中皮腫マウスモデルが「根治」した後に、さらにBALB/c由来の他の腫瘍細胞株(腎癌、血管肉腫)も拒絶することを再確認したため、このモデルを使用し、免疫記憶形成のメカニズム(NK細胞やマクロファージの関与)を調べる。また、薬物の胸腔内投与方法の開発に関しては、それぞれの治療法(抗癌剤、抗体療法、免疫細胞療法)における最適な胸腔内投与方法を、徐放効果、生体適合性、生体吸収性の面から、検討していく。具体的には、アスパラギン酸と塩化カルシウムのゲル、ヒアルロン酸ゲル、ゼラチン、PLGAマイクロスフェアなど用いて、検討を行う予定である。 ②難治性の組織型である二相型、肉腫型に対するバイオマーカーの探索実験に関しては、これまで行ってきた、ヒト中皮腫細胞株を免疫原とするランダム免疫法、二次元電気泳動・質量分析法、及び今回新たに行ったショットガンプロテオミックス法で得られた候補タンパク質の中から、有望と考えられるタンパク質を選択し、これらに対する抗体を購入し、免疫組織染色を行い、有用性の高い候補タンパク質を絞り込む作業を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウス中皮腫細胞株(AB12)を用いた中皮腫マウスモデルに抗PD-1抗体及び抗CTLA4抗体の併用療法(±抗癌剤Gemcitabine)を行うことで根治率を2/3まで上げた系を作製し、根治した個体へ、さらにBALB/c由来の中皮腫以外の腫瘍細胞株(腎癌、血管肉腫)を拒絶するという現象の再現実験を行った為、全体の遅れが生じた。 次年度は免疫記憶形成のメカニズムの探索、胸腔内治療法の検討に必要なマウスや抗体、培養実験に使用する試薬、プラスチック製品に使用する予定である。
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