研究課題
酸化ストレス度(d-ROMs)や抗酸化力(BAP)と心理社会的ストレス、不妊症や妊娠高血圧症候群などの多くの病態との関連が報告されている。今回我々は不育症病態におけるd-ROMs及びBAPの意義を検討した。当院の不育症研究センターで管理した不育症患者の検体を同意のもとに使用した。非妊娠時の患者群(n=20)の血漿中のd-ROMs及びBAPをフリーラジカル解析装置で測定し健常群(n=20)と比較した。反復流産患者(n =30)の妊娠初期頸管粘液中のd-ROMs及びBAPを測定しその後の妊娠帰結を検討した。流産手術時に得られた脱落膜及び絨毛組織のd-ROMs及びBAPを測定し胎児染色体異常群(n = 10)と正常群(n = 10)とで比較検討した。血漿中のd-ROMsとBAPに有意な相関はなかったが、患者群でd-ROMs(p<0.05)及びBAP(p<0.05)が有意に高値であった。頸管粘液中のd-ROMsとBAPに強い相関(各p<0.05)が認められ、染色体正常群、生児獲得群、染色体異常群の順に高値であったが有意差はなかった。脱落膜及び絨毛のd-ROMsとBAPに相関(各p<0.05)があった。絨毛において差はなかったが、脱落膜において染色体正常群は染色体異常群に比してd-ROMsが高値(p=0.06)であり、BAPは有意に高値(p<0.05)であった。d-ROMs及びBAPが妊娠初期ヒト子宮頸管粘液及び子宮内容組織に存在することを初めて報告した。d-ROMs及びBAPまたは両者のバランスの破綻が不育症病態において何らかの重要な役割を演じている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
該当年度において不育症の子宮内局所での病態解明の一助として、d-ROMs及びBAPに着目し、その意義を検討した。その結果、d-ROMs及びBAPが妊娠初期ヒト子宮頸管粘液及び子宮内容組織に存在することを初めて報告し、d-ROMs及びBAPまたは両者のバランスの破綻が不育症病態において何らかの重要な役割を演じている可能性が示唆された。着床期周辺における重要な生殖生理現象の一つに絨毛の増殖・浸潤機能とそれに対する子宮内膜の脱落膜化機能がある。着床現象は様々なホルモンやサイトカイン等により活性化された生理活性物質とそれに対する内因性インヒビターによる調節機構によって制御されている可能性がある。そして、それらの検索が着床周辺期の生殖現象及びその破綻が惹起する不妊症及び妊娠初期の不育症の病態解明のみならず診断、治療に結びつく可能性が期待され得る。臨床検体の収集及び解析は大方順調である。しかし、臨床検査法との関連の検討や、着床期から妊娠初期における子宮内環境を再現する、培養モデルでの検討が未だ準備段階で充分に行われていない。
平成29年度の研究計画に症例数を増やし実験を継続するとともに、有意差の認められたバイオマーカーに焦点を絞り以下の実験を計画する。1、子宮内膜間質細胞の脱落膜化培養実験:子宮内膜間質細胞の細胞株(HESC)を培養実験に用いる。低酸素培養やカルシウムイオノフォア等によるカルシウム依存性プロテアーゼの活性化やLPS及びIFN-γによる感染のモデルを用いて、脱落膜化現象への種々のプロテアーゼの関与を検討する。またASA・ヘパリンや抗炎症剤の添加によりその脱落化や生理活性分子への作用を検討する。2、絨毛細胞(Extravillous trophoblast:EVT)のinvasion assay:cell line (BeWo,JEG3等)を用いMatrigel invasion assayで絨毛細胞の子宮内膜への浸潤機構(着床モデル)へのプロテアーゼの関与及び治療薬の作用を検討する3、血管新生モデルを用いた検討:HUVECを用いた細胞培養系に種々のプロテアーゼインヒビターを添加した血管新生モデルキットを用いて血管新生現象へのプロテアーゼの関与及び治療薬の作用を検討する。4、非妊娠時子宮内膜組織血流量(ETBF)及び組織硬度(VTTQ)の測定:ETBF及びVTTQ測定:インフォームドコンセントの得られた不育症患者及び不妊症患者を対象群とし、流産歴のない分娩歴を持つ健常女性を対照群として比較検討する。
(理由)該当年度においては臨床検体を用いた実験・解析が主体であった。そのためサンプリングや抗体類、免疫組織染色用試薬及びELISAキットの購入が必要であった。また海外での研究検討会や学会発表が行われなかった。(使用計画)平成30年度は上記に加えて、着床・妊娠初期培養モデルの構築を行う。また、海外での成果発表を計画している。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
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