研究課題/領域番号 |
16K11207
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
高林 哲司 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 講師 (70397272)
|
研究分担者 |
加藤 幸宣 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 助教 (00748981)
坂下 雅文 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (40555455)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 好酸球性副鼻腔炎 / 鼻茸 / 線溶系 / 凝固系 / アレルギー / 肥満細胞 |
研究実績の概要 |
本研究において耳鼻咽喉科領域で近年最も治療に難渋する疾患の一つであり、厚生労働省によって難病指定された好酸球性副鼻腔炎の病態解明を行い新規治療法の開発を目指している。本疾患の病態を解明する上で最も重要な事は粘膜浮腫が遷延化し特徴的な鼻茸形成メカニズムを解明することである。我々は鼻粘膜における創傷治癒過程の障害が粘膜浮腫の原因と考え線溶系と凝固系のバランスの破綻が原因であると考え研究を進めている。 平成28年度に行った研究において好酸球性副鼻腔炎患者の鼻粘膜におけるフィブリン網沈着を免疫染色で定量を行い、これまでの検討で本疾患に関与する可能性がある分子の発現量をreal time PCR,ELISAで測定し相関関係、および蛍光染色でフィブリン網形成に直接関与するかどうかを検討した。この結果Th2炎症を誘導するようなサイトカインと鼻粘膜中のフィブリン網沈着量との間には正の相関が認められた。またヒト末梢血幹細胞から作成した肥満細胞を好酸球性副鼻腔炎の鼻茸上皮に浸潤した肥満細胞と同じフェノタイプに変化させ、凝固・線溶系に与える影響を検討した。この結果鼻粘膜上皮に発現し、近年副鼻腔炎の難治性への関与が報告されているサイトカインの刺激によって肥満細胞のフェノタイプが好酸球性副鼻腔炎の鼻茸の上皮に集積しているものと同様に変化することを明らかにした。さらにこのタイプの肥満細胞を線溶系を抑制する重要なタンパクの発現量が著明に増加することも発見し、肥満細胞の好酸球性副鼻腔炎の病態の形成に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。また現在培養好酸球(Eol-1)およびヒト末梢血から分離した好酸球を用いてtissue factorの発現と分泌制御について前述の肥満細胞との関連も含めて検討を行いデータの解析を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初平成28年度に行う研究として、①手術で採取した鼻粘膜サンプルを用いた凝固・線溶系関連分子の検討、②凝固・線溶系に与える肥満細胞と好酸球との相互作用についての検討を予定していたこれらは順調に研究が進んでおり好酸球性副鼻腔炎の病態解明し近づいている。②の培養肥満細胞と好酸球の相互作用に関しては現在データの解析などを行っており得られた結果に対して考察を行っている状態である。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度以降は平成28年度の継続を行うとともに得られた研究結果をもとに以下の実験を行う。 ①鼻粘膜上皮におけるt-PA産生メカニズムの解明 好酸球性副鼻腔炎の鼻茸粘膜における線溶系の抑制には粘膜上皮におけるt-PAの発現と活性の著明な抑制が関与している。発現量の低下にはTh2サイトカインであるIL-4, IL-13の刺激によるものであることを培養細胞を用いた検討によって明らかにしているが、t-PAの活性の抑制に関するメカニズムは分かっていない。PAI-1は直接t-PA, u-PAを不活性化する働きがあり、本疾患にも関与している可能性がある。臨床サンプルを用いた検討によってPAI-1の関連を解析し、培養気道上皮(NHBE),培養鼻粘膜上皮(NEC)を用いてリコンビナントPAI-1を加えることによってt-PAの活性をELISAにて測定する。また実際の治療方法を考える上で鼻粘膜におけるt-PAの産生誘導は有効な手段の一つである。鼻粘膜上皮細胞が主なt-PA産生細胞であり、前述のようにTh2サイトカイン刺激によってt-PAの産生が著明に低下することを明らかにしたが、t-PAの産生を亢進させる条件はまだ分かっていない。血管内皮細胞での報告であるがレチノイン酸がt-PAの発現亢進に関与するというデータもあり、レチノイン酸が気道上皮におけるt-PA発現に関与するかどうかを検討する。 ②鼻粘膜のフィブリン網を直接分解する 難治性の鼻茸粘膜にはフィブリン網が過剰に形成されており、これは凝固系の亢進、線溶系の抑制効果によるものである。凝固・線溶系を修正することが治療方法としては理想だが、様々な因子が複雑に絡み合っているため解析には時間がかかる。そのため鼻茸内のフィブリン網を直接分解する方法の検討を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
臨床検体の収集と解析が主な内容であり、肥満細胞の培養を用いた検討、フローサイトメトリーなどの検討など多額の支出が予想される研究にまだ進んでいなかったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は培養肥満細胞や摘出標本を用いたフローサイトメトリーによる解析を行う予定で培養に使用するサイトカイン、抗体などが必要になる
|