研究課題/領域番号 |
16K11836
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
吉村 篤利 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 准教授 (70253680)
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研究分担者 |
宮崎 敏博 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 准教授 (10174161)
原 宜興 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 教授 (60159100) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 歯周炎 / 歯石 / インフラマソーム / 結晶 |
研究実績の概要 |
歯周炎患者では歯石沈着により症状が悪化することが知られているが、我々は、先行する予備実験において、歯石中のリン酸カルシウム結晶がインフラマソームと呼ばれる蛋白複合体を活性化し、マクロファージのIL-1β産生を誘導することを明らかとした。IL-1βは強力な炎症性サイトカインで歯周組織破壊に大きな影響を及ぼすことが知られている。本研究では、① 実際に、歯周組織でインフラマソームの活性化が起きているかどうか、② 歯肉上皮細胞を歯石で刺激すると、ピロトーシスと呼ばれるインフラマソーム依存性細胞死が誘導されるかどうか、③ 歯石によるインフラマソーム活性化を、食物中成分や、低分子インフラマソーム阻害薬により抑制できるかどうか、を明らかにすることを目的とした。 平成29年度は、歯肉上皮細胞を歯石で刺激すると、ピロトーシスと呼ばれるインフラマソーム依存性細胞死が誘導されるかどうかについて検討した。長崎大学病院に来院した歯周炎患者に研究内容を説明し、同意を取得した上で歯石を採取した。歯石は洗浄後に粉砕して上皮細胞の刺激に用いた。ヒト口腔上皮細胞株HSC-2を歯石粒子で刺激すると、濃度依存的に細胞内の乳酸脱水素酵素の放出がみられた。また、歯石で刺激後の細胞をヨウ化プロピジウムで染色すると、ヨウ化プロピジウムを取り込んだ細胞は増加していた。このことから、歯石は、HSC-2細胞の細胞死を誘導していると考えられた。 HSC-2細胞を歯石で刺激した後に、NLRP3インフラマソームの重要な構成成分であるカスパーゼ1の活性を測定すると、濃度依存的に活性の上昇が見られた。また、NLRP3インフラマソーム阻害剤のz-YVAD-fmkやグリブリドを添加すると、乳酸脱水素酵素の細胞外への放出は抑制された。このことから、歯石による細胞死の誘導はNLRP3インフラマソームを介したピロトーシスであると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、① 実際に、歯周組織でインフラマソームの活性化が起きているかどうか、② 歯肉上皮細胞を歯石で刺激すると、ピロトーシスと呼ばれるインフラマソーム依存性細胞死が誘導されるかどうか、③ 歯石によるインフラマソーム活性化を、食物成分や、低分子インフラマソーム阻害薬により抑制できるかどうか、を明らかにすることを目的とした。 ①について、平成28年度の研究結果から、実際に歯肉溝滲出液中にIL-1βが検出され、歯周ポケットにおいてIL-1β産生に必須のインフラマソームの活性化が起きていることが間接的に証明された。また、歯周病患者から採取した歯石で刺激後の末梢血多形核白血球および単核球培養上清中にIL-1βが検出されたことから、微小歯石粒子にインフラマソームを活性化してIL-1βを誘導する作用があることが証明された。これらの結果から、歯周組織で実際に歯石によるインフラマソームの活性化を介したIL-1βの産生が起きていると考えられた。 ②について、平成29年度の研究結果から、ヒト口腔上皮細胞株HSC-2を歯石粒子で刺激すると、濃度依存的に細胞内の乳酸脱水素酵素の放出がみられ、歯石で刺激後にヨウ化プロピジウムを取り込んだ細胞は増加したことから、歯石は、HSC-2細胞の細胞死を誘導していることが示された。また、HSC-2細胞を歯石で刺激した後に、NLRP3インフラマソームの構成成分であるカスパーゼ1の活性が上昇し、NLRP3インフラマソーム阻害剤のz-YVAD-fmkやグリブリドによって、歯石による乳酸脱水素酵素の細胞外への放出の誘導は抑制されたことから、歯石による細胞死の誘導はNLRP3インフラマソームを介したピロトーシスであること考えられた。 これらのことから、平成29年度までに予定していた研究計画をほぼ達成できたと判断し、研究の進捗状況はおおむね順調と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度までの研究結果から、歯周組織で実際にインフラマソームを介したIL-1βの産生が起きており、歯肉上皮細胞を歯石で刺激するとピロトーシスと呼ばれるインフラマソーム依存性細胞死が誘導されることも示された。したがって、平成30年度には、当初の計画通り、歯石によるインフラマソーム活性化を、食物成分や低分子インフラマソーム阻害薬により抑制できるかどうかについて検討する。 まず、ブドウ果皮に含有されるポリフェノールresveratrolの歯石によるインフラマソーム活性化抑制作用を検討するために、resveratrolの存在下および非存在下でマウスマクロファージを歯石で刺激し、産生されるIL-1β濃度をELISA法で測定する。また、resveratrolの存在下および非存在下でHSC-2細胞を歯石で刺激し、ピロトーシスの抑制効果についても検討する。 Resveratrolはインフラマソーム活性化を抑制することが知られているが、効果が見られない場合は、緑茶に含まれるカテキンなど、他の食品成分のインフラマソーム活性化抑制効果を検討する。 次に、インフラマソームを標的に開発された低分子量阻害薬MCC950の歯石刺激に対する効果を検証するために、MCC950の存在下および非存在下でマウスマクロファージを歯石で刺激し、産生されるIL-1β濃度をELISA法で測定する。また、MCC950の存在下および非存在下でHSC-2細胞を歯石で刺激し、ピロトーシスの抑制効果について検討する。 MCC950は、インフラマソーム活性化を効果的に抑制すると報告されているが、抑制効果がみられない場合には、glyburide、levornidazole、parthenolide等他の阻害薬についても検討し、これらの阻害薬が歯周治療へ応用可能かどうか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は比較的期待通りの研究結果が得られたため、研究計画作成時の実験回数と実際に実施した実験回数に差が生じ、次年度使用額が生じた。 次年度は、次年度の予算と次年度使用額を合わせてインフラマソーム阻害実験に必要なインフラマソーム阻害薬の購入に充てることにより、比較的困難が予想されるインフラマソーム阻害実験に関する研究計画について、阻害実験を繰り返して行うことでできる限り遂行する。
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